十戒の割れる海

■十戒■

ハリウッドお得意の大スペクタクル映画にもずいぶんバリエーションがあるが,史劇というのも一大ジャンルになっている。最近はさすがに少なくなったが,かつては「ベン・ハー」や「十戒」,「サムソンとデリラ」に「聖衣」や「クレオパトラ」その他いろいろ,ずいぶん作られたものだ。大がかりな見せ物として重要な商品でもあったのだろう。

当時は今のようなCG技術がないから見せ場の特撮シーンも割とプリミティブな技術で作られている。しかし,画面設計がしっかりしているので現代作品と比べても見劣りしないものが多い。「ベン・ハー」なんか今でも再現不可能な域に達しているのではないか。

その「ベン・ハー」と比べて風格ではいまひとつだが,見せ物的仕掛けではよりハッタリの効いている「十戒」もまた忘れられない大作史劇のひとつだ。こちらもチャールトン・ヘストン主演。大作史劇には欠かせぬ顔である。なにしろ十戒を授かったモーゼの話であるから聖書をひもとくまでもなく見せ場はいろいろある。しかし「十戒」といえばなんといってもあの海が割れるスペクタクルシーンに尽きる。映画は見たことがなくてもそのシーンのことはご存じの人も多いだろう。

ユル・ブリンナー扮する王の追求を逃れて大勢の民とともに大移動を続けるモーゼ一行。紅海のほとりにさしかかった彼らに迫る王の軍勢,そこで紅海がまっぷたつに割れる映画史上名高いこのシーンが登場する。惜しみなく物量を投入した映画にふさわしい盛大なクライマックスである。サイド4の25分20秒というところか。その後の海中(海底のというべきか)の道をわたる民族大移動のシーンもスケールがでかい。同じくサイド4の26分30秒あたりからだ。ここは音楽が最高にドラマティックでハリウッドの神髄ここにありという感じだ。

よく見ると合成は少し苦しいのだが,膨大なエキストラに支えられた驚異の人海戦術によりまさに空前のスペクタクルとなっている。これがあまりにも有名になったので以後いろんな作品で模倣された(日本の「大魔神」などにも同様のシーンがある)ものだが,むろん,元祖をしのぐものはない。注がれたエネルギーが桁違いだからだ。ハリウッドってとんでもないところなのだ。

オマケとして映画冒頭のプロデューサー(もちろんセシル・B・デミル)による前口上も聞いてみよう。制作者の演説付き映画なんてめったにお目にかかれないぞ。

十戒 SF108-0085
発売元 (株)パイオニア