ラ・ジュテ 一瞬の動画

■ラ・ジュテ■

僕のページで最初に取り上げるDVDってどのタイトルだろうな,と思っていたら自分でも予想外の作品が第1号になった。フランスのSF映像詩とも言うべき掌編「ラ・ジュテ」である。

「12モンキーズ」の原典としても話題になったこの作品,今回DVDを入手して初めて見ることができた。感想はというといやもうすんばらしい!の一言。30分にも満たない作品ながら,DVDプレーヤーを買った甲斐があったわ〜と思わせてくれた傑作である。

僕は決して「12モンキーズ」否定派ではない。豪華な映像で楽しませてくれたし,メイキング共々十分エンタテインメントとして成立していたと思っている。しかしこの「ラ・ジュテ」を見てしまうといくらひいき目に見てもハリウッド大作が原典に遠く及ばなかったことは認めざるを得ない。

下敷きにしただけで目指したものが違うといってもイメージの訴求力がまるっきり別物だ。この差は大きい。想像力に訴える力が歴然と違うのである。驚いたなあ。

この作品は静止画(スチール写真)のモンタージュだけで構成された異色作である。あとは印象的なナレーションと音楽だけ。1枚1枚の絵が卓越した写真家の作品のような強烈なイメージを持っており,実に濃密だ。モノクロの力が最大限に発揮されている。生半可な腕で映画なんか撮るんじゃねえぞ,と無言のプレッシャーを感じるような作品だ。

その静止画だけで構成された作中,1か所だけ動画が挿入されるシーンがある。ベッドで寝ている女性が目を開ける,まばたきする,というただそれだけなのだが,この世界に見入っている観客にとってはどきんとする衝撃がある。スチール写真だけで構成された,いわばすべてが風景であるような世界が一瞬ぞわっとした感触をかいま見せるのだ。

問題のシーンはDVDではチャプター16の19分24秒といったところか。むろんここだけ取り出して見るような愚かなマネをしてはいけない。ひとコマたりとも見逃せない作品だからだ。

それにしてもこれが1962年度の作品というのは驚きだ。これほど濃密でイメージ豊かな幻想が既にその時代に生み出されていたこと,しかも今見ても全く古びていないというのはすごいとしか言いようがない。フランス映画恐るべし。必見&必携の1枚。

ラ・ジュテ CPVD-1059
発売元(株)IMAGICA/カルチュア・パブリッシャーズ