ジェニーの肖像画

■ジェニーの肖像■

超有名なビッグタイトルばかりが映画の楽しみではない。埋もれていく小品にも様々なエピソードが隠れていたりちょっとしたシーンが印象的だったりする。内容は全然記憶に残らなくても「あれは昔見たなあ」という思いだけが心にこびりついて離れないこともあるよね。

「ジェニーの肖像」は僕にとってそんな映画になりそうだ。DVDがリリースされて初めてお目にかかったのだが,出来映えうんぬんより「なるほどこういう作品だったのか」という思いが強い。というのもロバート・ネイサンの原作小説はずっと以前から知っていたし,映画化されたことも知っていたのだが,今まで遭遇する機会がなかったからだ。

ニューヨークの貧乏画家アダムスが出会った少女ジェニー。彼に画家としてのインスピレーションを与えたその不思議な少女は会うたびに急速に成長し,少女から美しい恋人へと変貌してゆく。時を越えて現れる彼女は果たして何者なのか……。

見ようによっては怪談になるのかもしれないが,映画はクラシックで風情のあるロマンスになっている。今の目で見るとイントロの講釈部分など仰々しすぎるのでは,という感じもするが,まあ1948年作と聞けばなるほどとうなずけるかな。どういうわけか僕はずっと60年代ころの作品だと思い込んでいた。それでよけい古めかしい印象を受けたのかもしれない。

さて,貧乏画家のアダムスはジェニーの肖像画を描くことで画家として飛躍することになるのだが,小説と違って映画ではその肝心の"ジェニーの肖像"を実際に絵として見せなければならない。後にメトロポリタン美術館に展示されるほどの名画という設定だから下手なものは出せないところだが,その出来映えについては映画を見て判断していただくしかない。

DVDではチャプター9の50分27秒。この時点ではまだ描きかけの未完成バージョンである。完成品はラストシーンに登場するのでよぉく見分してみよう。

この映画,モノクロ作品と思ってずっと見ていると途中で「ん?」となり最後は「お!」となる。それに嵐のシーンの撮影など実に見事なもので,特殊効果部門でオスカーを得ていると聞いても納得できると思う。実は侮れない力作だったのだ。

ところで,原作と映画の関係についてはよく話題になるが,この作品は原作が文庫本で150ページくらい。長編としてはコンパクトなのでDVDを見た後すぐに読み返してみた。すると映画化に当たってスタッフがどこをどういじったか,というノウハウみたいなところがいろいろ見えた気がしてとても興味深かった。

あの「風と共に去りぬ」を作ったセルズニックが自分の奥さん(ジェニー役のジェニファー・ジョーンズ)のために作ったという点も踏まえて,なるほどこのキャラクターはこうきたか,そうかこの部分のストーリーはこう改変したか,なにより,問題の肖像画が原作の十歳過ぎくらいの"黒衣の少女"ではなく,成人した"ジェニーの肖像"になった映画版の事情というようなことが,いつになくよくわかる気がしたのである。これは面白いと思った。

ジェニーの肖像 JVBF 25110
発売元(株)日本ビクター