ジョーズ最初の犠牲者

■ジョーズ■

かのスピルバーグ監督の傑作「ジョーズ」も今ではDVDで容易に入手できるようになった。ファンにとってはまことによい時代である。その続編も含めて人喰いザメパニック映画はたくさん作られたが,さすがに本家本元は違うなあと思い知らされる1作だ。寝っ転がって見るつもりでもなかなかそうはいかない。いつの間にか息を詰めて見入ってしまうのである。

映像技術はどんどん進歩しているので「すごい映像」というのは早々と陳腐になってしまうことも多いのだが,演出の力によって生み出されたサスペンスや迫力といったものは別種の生命力をもっている。この映画を久々に見直してそのことを痛感した。25年余も前の作品ながら全然古びていないのである。

なんだかんだ言われながらやはりスピルバーグはたいしたもんだと正直思う。彼がこの「ジョーズ」や「激突」の路線でそのまま突っ走っていたらハリウッドの歴史はまた違うものになっていたかもしれない。

さて,人喰いザメに襲われる恐怖という点でこの映画にまさるものはないと思うのだが,中でも印象強烈なのはやはり冒頭の女性が襲われるシーンだろう。誰もが知ってるあの場面である。今さら説明も不要だが,夜の海を気持ちよく泳いでいた女性がジョーズ最初の犠牲になるショッキングなシーンだ。

ガボッと頭が水中に引き込まれた後,一拍おいて凄まじい悲鳴に変わるその「間」が異様に怖い。あまりにインパクトがあったのでいろいろパロディのネタにされたりもしたが,実際コレを見てしまうと知らない海で泳ぐのには二の足を踏んでしまいそうだ。少なくとも一抹の不安を覚えるようになるのではないか。まさかねーと思いながら。

作中では人がジョーズに襲われるシーンがほかにもいくつか出てくるが,衝撃的という点ではやはりここだろう。見ているこっちの顔がひきつるのを自分でも感じる。とうに展開がわかっているのにである。うまいぞ,こわいぞ。ついでに「泳ぎに行く前に観てください」とすすめる予告編もいいねえ。

あのかわいそうな彼女を演じた女優さんはSusan Backlinieという人なんだけど,もしかすると史上最も印象的なチョイ役のひとりかもしれない。

DVDではチャプター2の4分6秒あたり。非英語圏の人間には彼女が何と叫んでいるのかわからないのがよけいに断末魔の凄まじさを感じさせて怖い。英語字幕にしてみると「神さま助けて!」と言ってるらしいが,わざわざそういうことを確認している僕は悪趣味なのかもしれない。

27歳の若さでこれを撮り上げたスピルバーグもすごいが,これを27の若造に撮らせる会社の方も同じくらいとんでもない。うらやましいというかあきれるというか,邦画には金輪際望み得ぬ冒険であることは確かだ。

ジョーズ SUD-30744
販売元(株)ソニー・ピクチャーズエンタテインメント