湖面に突き立つ白い足

■犬神家の一族■

角川映画第1作「犬神家の一族」とくれば,最近またテレビCMなどに登場しているので懐かしいぞ〜という方も多いだろう。76年秋の公開,ということはこれもまた四半世紀近く前の作品(今は2000年9月)ということになる。当時,それまでになかったテレビ・雑誌などでの大宣伝でずいぶん話題になったものだ。

DVDがリリースされたので久しぶりに対面したのだが,細かいところはほとんど忘れていたのでいろいろな点で面白かった。

非常におおざっぱな感想だが,いかにも邦画邦画しているなあ,というのが再見しての印象。こういうところに時間をかけるのか,とかこんな風に省略するのか,といった演出の手触りみたいなものが和風で,ふんふんとかほっほうとか感じられたりするわけだ。むろん,石坂浩二の金田一耕助というのも新鮮だった。意外なキャスティングではあったけど。

横溝ミステリーといえば怨念と血縁が絡み合ったおどろおどろしい世界だが,系図を書かなきゃわからないくらい入り組んでいるので,2時間余の映画であの血の味を描き尽くすのは難しいかもしれない。それでも映像の力というのはさすがで,今でもいくつかのシーンはパロディにされるほど有名だ。

中でも最もインパクトがあったのは死体の両足が湖の水面から突き出ているあのシーンだろう。早朝の静かな湖面にオブジェのごとく突き立ったそれは,あまりにも静かに描かれるのでハッとする一瞬のショックの後どどーんと戦慄がやってくる。ポスターやスチルでもおなじみだが「犬神家の一族」といったらやはりこれだろう。

生気のない(当然だが)青白い両足,そしてあの微妙な曲がりぐあいが何とも言えず不快な感じで印象強烈だ。生首が転がっているよりはるかに不吉な光景である。

DVDではチャプター9の105分32秒あたりか。ちなみにこの時の発見者となる川口晶という女優さん,実は昔ちょっとファンだった。テレビドラマで元気のいいお姉さんをやらせたらそりゃあもう生き生きとしててよかったもんだ。邦画界があれほど衰退しなければもっともっと活躍してくれただろうに,とちょっぴり複雑な心境である。

ところでこの映画,大野雄二の音楽も有名だ。あのテーマ曲である。僕には正直なところ大野さんの音楽はどれを聴いてもルパン三世と区別がつかない(ファンの方には申し訳ない)のだが,それでもこのメインテーマは不朽の名曲だ。もっとも,僕はこの曲を口ずさんでいるといつの間にか「シャレード」のテーマとごっちゃになってしまうのだが。

このDVDの仕様やクオリティにはちょっと不満もあるのだが,まあ角川映画リリース第1弾ということでご祝儀だ,文句は言うまい。そのかわり石坂金田一シリーズはぜひ全作出していただきたいものである。

犬神家の一族 KABD-78
発売元(株)角川書店/アスミック