ガンマン十戒

■怒りの荒野■

マカロニ・ウエスタンの風景というのは本場アメリカ製の西部劇と較べると妙にさびれて干からびた感じが色濃い。どう見てもアメリカというよりはメキシコの片田舎という風情で,そのうらぶれた雰囲気がまたよいのだね。

今思い返すとどれも似たような話だったなあ,という印象がある。タイトル(邦題)は荒野,怒り,復讐,皆殺し,夕陽,星空,ガンマン,用心棒,無頼漢,無法者あたりの言葉の組合せでできているし,音楽にしても良い曲がいろいろあるが,そのカラーはみな似ている。有名な作品を10本くらい挙げたとして,そのタイトルとストーリーと音楽の組合せをきちんと言えるかというと僕には自信がない。

それでもマカロニ・ウエスタンってよく見てたよなあ。

かつてのテレビの洋画劇場では定番のようなプログラムだったが,妙に日本人好みの音楽のせいもあり,ちょいと暗めの時代劇を見るのと同じような感覚で楽しんでいたように思う。

ジュリアーノ・ジェンマ主演の「怒りの荒野」はその中でも非常に印象に残っている映画である。もっと有名でもっと人気のあるタイトルは他にいろいろあったが,僕にとってマカロニ・ウエスタンといえばこの作品だ。オープニングの音楽がもうカッコよくてね。長い間エンニオ・モリコーネだと思い込んでいたけど,実はリズ・オルトラーニのスコアだということをDVDを買って初めて知った。うーん,そうだったのかあ。

町中から蔑まれて日々を生きていた青年は,ある日出会ったガンマンの強烈な悪の魅力に引きずられて彼の弟子となる。ガンマンの非情の掟をひとつずつたたき込まれながら,しかし悪にのめり込んでいくそのやり方についていけず,ついに彼と対決する青年……。

教わったガンマン心得の十か条をひとつずつ実践しながら敵を倒していくクライマックスは,まっことマカロニ&時代劇の味わいで印象的だった。DVDではチャプター19の103分23秒あたりから。10個全部唱えるわけではないが,やはりここは感情がぐうーっと熱くなるシーンである。ちなみにガンマン十戒の内容は

1 他人にものを頼むな
2 決して他人を信用するな
3 銃と標的の間に立つな
4 拳も弾と同じだ 数え間違えば殺される
5 傷を負わせたら殺せ 見逃せば自分が殺される
6 危険な時ほどよく狙え
7 縄を解く前には武器を取り上げろ
8 相手には必要な弾しか渡すな
9 挑戦を受けなければ全てを失う時がある
10 殺しは覚えたらやめられない

流れ者ガンマンを演じたリー・ヴァン・クリーフの華のある悪役ぶりが本当にカッコよくてほれぼれする。未熟な若者と大人の悪人の対比が実に鮮やかで,主人公が魅かれていくのもよくわかる。実際には相当に酒癖が悪かったようだが……。

ジュリアーノ・ジェンマってこんな声だったんだなあと思いつつ,野沢那智の声でしゃべってくれないのがなんだか不思議な気がする。洋画劇場時代のインプリンティングがいかに強烈であったかあらためて実感してしまった。

怒りの荒野 IMBS-1111
発売元(株)IMAGICA