死人の木

■スリーピー・ホロウ■

映画というのは徹底した娯楽から実験・芸術まで幅広い表現媒体なのでその作り手も職人さんから芸術家まで様々だ。現在活躍している監督さんたちの個性もいろいろだけど,その中でティム・バートンは実に変わった立ち位置にいる人ではないだろうか。エンタテインメントの人なのにものすごくアーティスティックな独特の世界を持っていて印象度抜群だ。

近作「スリーピー・ホロウ」を見ていると映画が贅沢な娯楽だということがよくわかると同時に,バートン監督の趣味やセンスに「やっぱ一流と二流には歴然と差があるなあ」と実感できる。

何よりイマジネーションの強度が違う。緊張感を支え切る強さは一流の証だ。18世紀末のおどろおどろしい田舎にうっかり現代の空気を紛れ込ませてしまうようなヘマは決してしない。そうしたほころびは何気ない台詞ひとつにも顔をのぞかせることがあって,どういうわけか観客はそうした些細な穴に敏感に反応してしまうものなのだ。だからバートンのように隅々まで自分色で緻密に染めめ上げてしまう力というのはすごいなと思ってしまう。

怖いおとぎ話,あるいはホラーとして存分に楽しめるこの映画も,そうした作り込む密度が半端じゃないのでこっちも安心して悪夢にひたることができる。

とにかく映像の「絵」としての存在感がすばらしいね。特に冒頭,主人公が舞台となるスリーピー・ホロウの村にやってくる途中のクレジットの部分。あの美しさと雰囲気の濃密さだけでも特筆ものじゃないかな。監督の絵を描く人としてのキャリアが実によく出ている。構図といい色使いといいこれから始まる物語に大いなる期待を抱かせてくれるあの絵の力はあっぱれだ。

映画自体の見どころも多々あるけど,僕が印象的だったのは中盤の「死人の木」の場面。あのねじくれた木のシルエットが実に怖くていいね。映像もすごく凝ってて不気味な雰囲気最高潮。DVDではチャプター19,時間にして48分51秒あたりからの数分間。わが国にも「幽霊の正体見たり枯尾花」という言葉があるけど,草木というのは昔からそういうスピリチュアルな存在と見られる伝統がある。木のシルエットが不気味な人の姿に見えたりするからだろうけど,そういえば「ポルターガイスト」の中にも怖い木のシーンがあったね。

ちなみにここまでの展開でこの雰囲気はどこかで……と思っていたのだけど,あの木の根元からアレがごろごろというシーンで思い出した。島田荘司の御手洗潔シリーズが時々こんな雰囲気なんだ。あのシーンとそっくりな場面を読んだことがある。そうか,映像になるとこんな感じなのかと思ったよ。

後半の風車小屋のシーンもすごく印象的で名場面ということでならそちらを取り上げるべきだったかもしれないな。若かりしバートンの「フランケンウィニー」や元ネタの「フランケンシュタイン」を見ておくとニヤリ度倍増である。とにかくティム・バートン色全開の映画だった。

スリーピー・ホロウ コレクターズ・エディション PCBH-50028
発売元(株)日本ヘラルド/ポニーキャニオン