第四の世界

■乙女の祈り■

男の子のなれの果て(つまり僕)には永遠に理解不能なのが"女の子"の世界だ。男女共学の下でごく普通に育ってもそうなのだから,少し時代がさかのぼったり宗教的な色が付いている社会の"それ"となるとますます手に負えない。

映画にしろ小説やコミックにしろ,そこに描かれる女の子たちの世界は"わかったようなわからんような"というのが実は本音である。面白くてもね。向こうもそう思っているだろうが,僕らにとって彼女らは異生物なのだ。少なくともそう割り切った方がうろたえずに済む。

だからピーター・ジャクソン監督「乙女の祈り」は僕などの感性の対極にあるお話のはずなのだが,にもかかわらずたいへん面白い。

これはふたりの女生徒が危険なほど親密になり,彼女たちだけの妄想と現実の狭間で歪み,やがて破滅に向かっていくという悲劇である。ヒロインたちの感受性がひどく危なっかしくて容易に病んでしまいそうなことは最初から歴然としているが,その描き方がスリリングでちょっと目が離せない。虚実混濁した感じが実に妖しいのだ。

ストーリーの進展にともなって,思春期の不安定な魂に"性"や"血"のイメージを重ねたようなひどく象徴的な妄想が紛れ込んでくるのだが,そこには妙に不健全な色合いがつきまとっている。病的であるが故に優等生であるはずのふたりには狭い世界しか見えない。考え抜いたという"あの計画"が,あれほど稚拙なものでしかなかったというところに彼女たちの壊れ方が表れている。

しかし,その病んだ妄想の部分が美しかったり,輝いていたり,灰色であったり,暗かったりしてどれも印象的なのだ。

特にふたりが「第四の世界」と呼ぶ輝かしいイメージの中にすべり込むシーンが忘れがたい。美しい緑とまぶしい陽射し,ユニコーンがたたずみ巨大な蝶が飛ぶふたりだけのユートピア。それまでも視覚的にこだわりのある映像が展開していたのだが,ここではいきなりむにょっとCGで世界が広がるので殊更インパクトがある。

すでにDVDが出ているので僕の古いLD版のデータは意味がないが,サイド1の30分39秒あたりから。LD時代の終盤に買った代物で,定価2,850円というその当時にしてはインパクトのある価格だった。LDも早々にこの価格帯まで安くなっていればもう少し普及しただろうになあ,と思ったものである。

実話を元にしたお話だそうだが,別にそんなことどうでもいいやというくらいこの映画の中の狂気には迫力がある。演出の力量なのか,映像の力なのか,それとも演じた彼女たちの才能なのか,いずれにせよ妄想の勝利には違いない。

乙女の祈り MGLC-99143
発売元(株)メディアリング/ビーム エンタテインメント