時速200キロの出会いは撮影できるのか?

■(ハル)■

最近はパソコン通信を経ずに最初からインターネットを始める人が増えているので,どのくらいこの映画のニュアンス(特にパソ通ユーザーの感じるそれ)が伝わるのか分からない。しかしパソコンでのコミュニケーションを一度でも経験した人にはぜひ見てほしい作品だと思う。

森田芳光監督「(ハル)」。特に2400モデム時代から通信やってる人間にはほろ苦い想い出のひとつやふたつは浮かんできそうな映画である。

ご覧になった方はおわかりだと思うし,また公開当時も話題になったが,この時代にあれだけスクリーンで文字を読ませる映画というのも画期的だ。同じ手は2度と使えないだろうことは容易に想像がつく。現実のパソ通ではもっとおちゃらけたメールのやりとりが大部分で,あれほど落ち着いた文章で交わされるメールは少ないと思うが,むろんそうでない人もいるだろう。映画ならあれでいい。

さて,この映画のクライマックスともいえるのが主役の二人,ハルとほしが走行中の新幹線の内と外で互いの姿をビデオカメラに収めるシーンだ。これは感動的な場面なのだが,後になって考えると「200キロで走る新幹線に乗っている人間をビデオに撮れるもんかいな?」と無粋な疑問がわいてくる。LD同封の解説でも少しだけそのシーンに触れているが,現実問題としてシロウトの技量ではムリなんではないか。

サイド2のチャプター34,27分45秒付近がそれである。

本来こんな風に映画のワンカットだけとりあげてどうこう言っても仕方がないのだが,これもまた感動を反芻したいファンのお遊びとしてお許し願いたい。ちゃんと本編巻頭から見てくだんのシーンにたどり着けば,静かなお話だけにえもいわれぬ感慨がある。

実際にそんな撮影が難しいとしても,観客が素直に「あ,いいシーンだわ〜」と感じることができればどうってことはないのであって,この映画はそれを抑制の利いた映像で静かに描いている。ヤボを言う愚を抑えきれない奴はご退場願うだけだ。よってこんなことを書いている自分も心を入れ替えて素直にこの映画を推す。

ラスト前の深津絵里(ほし)の意固地になる気分はすごくよくわかる。僕が彼女だったら妹とは永久に絶縁だろう。わずか2,3年前の映画なのに,パソ通経験者には妙に郷愁を誘う作品だ。

(ハル) TLL-2497
発売元(株)光和インターナショナル/東宝