デイジー,デイジー

■2001年宇宙の旅■

最近またもや新バージョンのLDが出た(しかも2タイプも)名作中の名作「2001年宇宙の旅」だが,映画の中で人間以上に存在感を見せてくれるのが人工知能を備えたコンピュータHAL9000だ。通称HAL。

HALの名は今では人間に反逆するコンピュータの代名詞のようになっているが,劇中では矛盾したミッションを与えられて(というのがどうも真相らしい)徐々に異常をきたしていく様子がスリリングだった。あの独特の無機的な男性声も印象的だ。

そのHALが,ボーマン船長の排除に失敗して彼の反撃を受け,活動停止に陥る直前に歌うのがこの曲「Daisy Bell」である。メモリーを引っかき回されて徐々に反応が鈍くなり,周波数の落ちた声で「デイジー,デイジー」と歌うが,それも続かずやがてHALは沈黙する。その瞬間ボーマン船長が知る木星探査計画の真実。

最新のドルビーデジタル版ではサイド3チャプター33の14分12秒あたりからHALの断末魔とも言える「Daisy Bell」が聞ける。ついでにその少し前,同じくチャプター33の13分45秒あたりを見るとHALの生年月日がわかる。1992年1月12日である。

この「2001年」という映画,公開時は難解だ難解だとずいぶん言われたものだが,SF的発想や道具立てがごく日常的なものとなった今ではウソのようにわかりやすい作品になっている。観客は公開後30年を経てようやくこの映画に追いついたのか。

それにしても最新リリースのLDは実にクリアな画質だ。完璧と言っていいSFXは今年の新作と言われても何の疑問も抱かれないだろう。暗黒の宇宙を静かにすべってゆくディスカバリー号を見ているとSF映画は30年前にすでに頂点に達してしまっていることを認めざるを得ない。デザイナーとして手塚治虫にオファーがあった話は有名だが,今となっては彼がこの仕事を受けなくてよかったと思う。手塚治虫は尊敬しているが,やはり今の姿以外の「2001年」は考えられないからだ。

とにかくこれを持たずしてコレクターなどとはおこがましい。超必携の1枚である。

2001年宇宙の旅 PILF-2510
発売元(株)パイオニアLDC