毎朝新聞80万部

■独立愚連隊■

映画のジャンルにも流行りすたりがあるものだが,邦画で最近めったに作られなくなったのが戦争映画だ。一時期,我が国でも映画やテレビでけっこう戦争ものが作られていたのだが,最近はほとんど需要がないようである。第二次大戦など生まれる前の話,前世の記憶と同レベルにしか思えない世代が多数派になってしまった今ではまあ仕方ないか。

時代劇の方が話は古いのだが,完全に別世界のフィクションとしか思えない分,娯楽として求められる余地はある。とにかく和製戦争映画が今や時代劇よりまれになってしまったのは事実である。

岡本喜八監督の「独立愚連隊」は59年作の和製戦争活劇である。だいたい愚連隊なんて言葉自体が死語なんだが,

黄塵荒ぶ北支最前線!ゴロツキ守備隊の不敵な応戦!

なんてキャッチコピーでもその時代色はわかろうというものだ。オーバーではなく,40年前の日本というのは今とは違う民族(観客)が住む別の国だったのである。

さてこの映画,実に面白いのだが僕はスクリーンで見たことはない。初めて見たのは中学生のころだったと思う。テレビの深夜劇場を布団にくるまって見たのだが,何しろずいぶん昔のこと,独立愚連隊というタイトルとやたら面白かったという印象だけが長く残った。

主演の佐藤允のものすごーく日本人離れした顔や,ヒロイン雪村いづみの一途さが印象的だったのだが,もうひとつ,なぜか最初に見たとき以来忘れられないのが劇中で交わされる「毎朝新聞の発行部数はおよそ80万部」うんぬんというセリフである(主人公は毎朝新聞の記者というふれこみで登場する)。

特に感動的な場面というわけでも重要なシーンというのでもないのだが,自分でもなぜこのくだりが記憶にとどまってしまったのかわからない。後にLDで再見した際もこの部分のセリフが出てきたときにはなぜか安心してしまった。断片がちかちかと明滅してるだけなんだが,それでもなかなか忘れられない……古い映画の記憶ってだいたいそんなものなのかもしれない。

LDではサイド2の40分10秒くらいのところだが,今回は名場面でもなんでもない,ただ自分にとって独立愚連隊イコールこの場面,という連想で選んでみた次第。

ところでこの映画,後年入手して見直すと最初に見たときとは全く印象が違うので驚いてしまった。痛快な娯楽作品と思いこんでいたのだが,実は相当に悲惨でビターなお話だったのだ。むろん面白いことに変わりはないのだが,大人にならないとわからないことがいろいろあるのだなと思ったものである。

独立愚連隊 TLL 2378
発売元(株)東宝