部屋の中の列車チェイス

■ウォレスとグルミット/ペンギンに気をつけろ!■

さて「ウォレスとグルミット」である。これだけの大人気,しかもスーパークオリティの作品ともなれば今さら僕ごときが持ち上げるまでもないのだが,僕だってこのシリーズが大好きなのだ,ひと言もふた言も言わせてくれい。およそ映像作品というものに興味のある人間ならば,一度はこのシリーズに愛を捧げるべきだと思うのだ。

僕が最初に見たのは第2作の「ペンギンに気をつけろ!」だった。そのあまりの面白さにひっくりかえってひとり自室で拍手したものだが,その時の印象が強烈だったのか,今でもこの第2作目が僕の一番のお気に入りである。

すんごいわー,よくできてるー,すばらしー,と言葉にすれば実に乏しい表現しか出てこないのだが,正直なところ,ホントに面白いんだからそれ以上理屈言ってもしょうがないでしょ,という気分なのだ。こちらのあらゆる想像,期待を遙かに越えてくるスタッフの才能と仕事ぶりに素直にひれ伏すのみである。

エンジニアとしてけっこう才能あるらしいのにどうも人が好すぎて頼りないウォレス,どう見てもウォレスよりインテリ(読書家!)な犬のグルミット,奸智に長けた怪しい下宿人(ペンギンだが)の3人?がそれぞれなんとも魅力的だ。

しかもキャラクターだけでなく,一点のムダもなく作り込まれたドラマの細部がまたすばらしい。

芸が細かいとかセンスがいいとかいろいろ言えるとは思うが,とにかく見ているこちらは「あっ」「おおっ」「わっ」とその考え抜かれた演出に驚嘆してしまう。想像力も創造力も実に強靱で,いささかのほころびもない。無意味なコマや無駄なシーンも一切ない。冒頭からラストシーンまで文字どおり神経が行き届いている感じだ。まさにクリエイター魂は細部に宿りたもうのである。

そしてなんとも言えぬ品の良さと趣味の良さ。映画やドラマの豊かな遺産を感じさせる数々のシーンが心地よい。たとえばカフェでペンギンを見張っていたグルミットがコインをチャラッとテーブルに放り出して立ち上がるその仕草。あっ,この感じ,この動き,確かに僕たちの記憶のどこかにあるワンシーンが鮮やかに浮かんでくるじゃないか!

どこをとっても楽しいこの作品だが,やはりクライマックス,部屋の中で猛スピードで展開される玩具の列車での追っかけが最高に笑える。特にグルミットがすごい速さで進行方向にレールを並べていく場面ではひっくり返って笑ってしまった。もう完璧,お手上げ,言うことなし。

DVDではちょうどチャプター13。あっぱれな悪漢ペンギン君にはFeathers McGrawという立派な名前があるのだが,意外にもメスだと聞いた。ラストシーンでFEATHERS McGRAW BACK INSIDEと大きく新聞の見出しに載っているところをみるとけっこう大物だったのかもしれない。

ともあれ,野球でいえば完全試合のごとき達成感と満足感で,アカデミー賞も当然という出来映え。ぜひとも手元に置きたい傑作だ。

ウォレスとグルミット/ペンギンに気をつけろ! SVWB 4076
発売元(株)SME/SPE Visual works