ミスター・ジングルスの復活

■グリーンマイル■

もうちょっとオスカーに恵まれてもよかったかなあ,というのが「グリーンマイル」を見たときの正直な感想である。結局DVDでの初対面になってしまったのだが,原作も映画誌の特集も読んでなかったので素直に「なるほどこういう話だったのか」とうなずける気がしたものだ。

ささやかな奇跡やショッキングなシーンもあるが,地味で暗い物語だし,噂ほど涙が止まらんというベタベタの演出でもない。けれどこの不思議な話には後からじんわりと効いてくるところがあって,ふといろんなシーンを思い返してしまうのだ。

何より,物語にぐうっと見入ってしまうその吸引力のようなものは見事で,見終わると3時間もたっていたのが意外に感じるほどである。90分でもしっかり堪能させてくれる映画を知ってしまうと薄味の3時間は辛いのだが,この作品には長丁場を感じさせない密度と緊張感があった。

アカデミー賞をもらったとしてもまあ異議はないという感じかな。あの黒人の死刑囚ジョン・コーフィを演じたマイケル・クラーク・ダンカンにオスカーをあげてもよかったと思うのだが。

さて,途中の凄惨な死刑執行シーンは強烈だが,あれを名場面というのも悪趣味なのであまり深くは触れない。ただ銃や爆薬などの暴力でばたばた死んでいく命と違い,あのようにひとつずつ段取りを踏んで殺されるというのはまさに最高の恐怖であって「たまらんなあ」と思ったのは事実である。

その死刑囚がかわいがっていたネズミのミスター・ジングルスが性悪の看守に踏みつぶされてしまうくだりがある。この看守パーシーの卑劣漢ぶりが観客までも憤激させるシーンだが,ここでコーフィがその不思議な力でネズミを再生させ,彼の神秘性と無垢を印象づける展開になっている。

ネズミを包み込んだコーフィの大きな手の中から光があふれ出すあのシーンである。映像として特に派手派手しい奇跡を演出しているわけではないのだが,TVスポットや予告編に必ず登場する場面だ。

DVDではチャプター25の90分38秒あたりから先を見てみよう。彼は今で言うところのヒーリングの能力があるようだが,手かざしのようなありふれたイメージではなく,相手のダメージそのものを吸い込み,無数の小さな羽虫のようなものに変換して口から吐き出すという珍しいやり方だ。独創的である。原作もそういう描写になっているのだろうか。

メイキングを見ると動いているときのミスター・ジングルスはほとんどが本物のネズミが使われていて,よくもまあうまく動かすもんだなと感心。映画界にはあらゆる分野に凄腕のプロがいることを実感する。

そうそう,メイキングといえば僕はここで初めて動いてしゃべっているスティーブン・キング(原作者ね)を見たよ。そうかあ,ああいうキャラクターの人だったのかあ,と何がなし小さな感動?があった。以前「エコエコアザラク」のメイキングで動いている古賀新一氏を見たときの感慨にちょっと似てたな。でもこれは余談。

グリーンマイル PCBG-50146
発売元(株)ポニーキャニオン