グラブザーのハンマーにかけて

■ギャラクシー・クエスト■

こんな楽しい映画が何でまたあんなに公開が遅れたんだろう,と思わずにはいられないのが「ギャラクシー・クエスト」だ。この作品に限らず映画興行には謎な部分がいろいろあるが,もったいない話である。売り方次第でもっともっとヒットさせられたろうになあ。

それはともかく,みなさんご存知のとおり「スタートレック」のパロディであり,また楽しいSFアクションコメディでもあるこの映画,僕はとうとう劇場で遭遇を果たせず,DVDが待ち遠しかった。こういうのは映画館で見なきゃねー。失敗しちゃったよ。

これはSFファン(それもちょいとトウがたった連中)が一番見たい夢だろうなと思う。昔,半村良の「亜空間要塞」を実に楽しく読んだ覚えがあるが,あれと同質の面白さという気がする。SFの世界がホントにあるんだ,というのは大きなオトモダチになってしまった元SF少年にとっては格別に甘美な夢想だろうからね。

かつての人気番組「ギャラクシー・クエスト」の出演者で今は落ち目となった俳優たち。地球からのテレビ電波を受信して彼らを本物のヒーローと勘違いした異星人から助けを求められることになって……というお話なんだけど,元々「スタートレック」とそのファンたちの姿をモデルにしているのであちこちににやりとする小ネタが詰まっていて本当に楽しい。

艦長役だった主人公ジェイソンがエンタープライズ号ならぬプロテクター号のブリッジで艦長席に座ったときの,セットではない本物のシステムが起動するあの感じ……ま,あれこそはファンの夢想そのものであろう。トレッキーではない僕でもそう思うもの。

苦しんでいる人々が最後の頼みの綱として招いた助っ人が実はニセモノだったという,とってもよくあるパターンで,これは最近では「バグズライフ」や「チキンラン」などでもお目にかかったよね。したがって,ニセモノだった主人公たちがやがて危機を乗り越えホンモノになっていくという快感も定石通り。おお,気持ちいいぞ。

さて,シェイクスピア俳優だったのに通俗SFの異星人クルー役に落ちぶれ果てた我が身を呪っていたドクター・ラザラスことアレックス。彼はテレビでの決めゼリフ「グラブザーのハンマーにかけて,ウォーヴァンの息子たちにかけて」というのが大嫌いで,口にする度に自尊心が傷ついているらしい。

だが彼を尊敬する異星人の若者の死に際して,彼は自らそのセリフで報いる。生々しい感情が舞台俳優のプライドを越えた瞬間,彼は本当のドクター・ラザラスになったのだ。DVDではチャプター16の81分19秒あたり。あれほど番組を毛嫌いしていた彼もその後ブリッジではためらいなく「プラズマスクリーン設置!」なーんて叫んでるもんね。

ここに至って主人公たちは艦長役から艦長に,ナビゲーター役からナビゲーターに,そしてパイロット役からパイロットに,というニセモノからホンモノへの変身を遂げる。役者は本物の戦闘知識や操縦技術は持てないけどヒーローのスピリットを宿すことはできるというわけだ。役ではなく本物になった彼らは見事異星人の危機を救い,万事めでたしという結末で,まことに楽しいひとときであった。

なお,洋画は字幕スーパーでなきゃという人もこの作品に関してはぜひ日本語版でも楽しんでもらいたいな。こちらもいいぞ。鈴置洋孝氏はさすがに艦長歴が長いだけあってクライマックスの本気で指揮する場面でははまりにはまっている。

そうそう,シガニー・ウィーバーの変身ぶりも特筆ものだ。知ってても本人に見えないくらいだもん。どひゃーあの歳であの胸?と驚いていたらやっぱりアレは作りものだそうな。わははは。

ギャラクシー・クエスト TSDW-33289
発売元(株)ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント/UNIVERSAL PICTURES(JAPAN)