インドの虎狩り

■セロ弾きのゴーシュ■

以前にも思ったんだけど,宮沢賢治の世界というのはアニメーションと相性がいいのだろうか。「銀河鉄道の夜」や「注文の多い料理店」,賢治自身をモチーフにしたものもあるし,あまり流通しない小品まで入れるとほかにもいろいろあるかもしれない。

「注文の……」などは20分足らずの作品だが,そのイマジネーションのすばらしいこと,ひと目でくぎ付けになってしまった。後でスタッフの顔ぶれを見て納得。岡本忠成監督,川本喜八郎監修だもんな,傑作なのも当然だったのだ。

昔LDが出たきりだった「セロ弾きのゴーシュ」もDVD版が出てうれしい限り。僕も久々に見ていろいろ感じるところがあった。高畑勲監督はじめスタッフインタビューなどのおまけも付いてまずは必携の一本だと思う。これでもうちょっと価格設定が低めだったらなあ。

久しぶりに対面すると,楽長さんてこんな丸い(形が)キャラクターだったっけ?とかビオラの娘はもっと美人に描かれていたような気がするのに,とかいろいろ昔と違った印象があって面白い。というより記憶なんてあてにならんなあといつものごとく実感してしまった。

この作品のおかげで,僕はベートーベンの田園というとこのセルアニメの風景がもやっと思い出されるようになってしまった。あれだけの人数であの音は出ないよなあなどと思いつつ,でもあれは心象風景の中で鳴ってるオーケストラなんだろうな。

しかし昔も今も「セロ弾きのゴーシュ」といえば「インドの虎狩り」である。劇中でゴーシュがネコに聴かせるあの曲だ。

きりきり舞いするネコ君を見ていると聴かせるというより拷問に近いような気もするが,この激しい演奏,実に印象強烈である。僕はてっきりチェロにはそういうクラシックのスタンダード曲があるのかと思っていたら,これは音楽担当の間宮芳生氏の作曲だったんだねえ。

DVDではチャプター4の16分32秒あたりから。ゴーシュが開いた楽譜では「インドのとらがり」となっている。僕は楽譜が読めない人間なのでわからないが,ちらっと映るこの楽譜,もしかしてちゃんとこの曲に忠実に描いてあるのかな?そんな気がする。

ゴーシュ本人はご丁寧に耳栓までして知らんぷりしているが,この強烈な「振動」をまともにくらったネコ君にはちょっぴり同情してあげよう。

夜毎の動物たちとの交流でいつの間にか上達していたゴーシュが終盤,賞賛を浴びて思わず「ネコです!鳥です!タヌキです!ネズミです!」と叫んでしまうシーンがあるが,ユーモラスで素朴な感動がいいなあと思う。

セロ弾きのゴーシュ PIBA-3012
発売元(株)パイオニアLDC