ゴケミドロの寄生

■吸血鬼ゴケミドロ■

日本の特撮映画というと昔から東宝作品が中心だが,もちろん他社だってトライしている。68年の「吸血鬼ゴケミドロ」は松竹製作の怪奇SF作品だ。これはなかなかの逸品で,その手の物が好きな人々にはたいへん人気がある。そりゃー昔の作品だから映像もお話もいくらだってツッコミは入れられるのだが,にしても,けっこう見入ってしまうくらい面白い。

とにかくキャストがしっかり演技しているのが印象的だ。なにしろ不時着した旅客機の生存者を襲う吸血鬼異星人って映画だから,演技陣が先に照れてしまうようでは話にならない。しかしこの映画のキャストは立派だ。実に日本映画らしい熱演ではなかろうか。

作品のカラーにもよるが,こういうくっきりした芝居っぷりは今どきの邦画ではなかなかお目にかかれない。ま,見ようによってはくどいくらいだけどね。でも金子信雄のおっさんなどホントに俗物らしくて,この感じが出せる演技があるからこそ荒唐無稽な話もしっかり映画映画していると思うのだ。

さてゴケミドロといえばたぶんここがいちばん有名なシーンだろう。犠牲者の額がばっくり割れてそこからゼリー状のゴケミドロが侵入していくあのくだりである。ストーリーは全部忘れてもここだけは覚えているに違いないという場面だ。手持ちの古いLDではサイド1チャプター9の32分28秒あたりかな。

またサイド2チャプター21の26分50秒ではゴケミドロが寄生者の額からにょろにょろと出てくる様子を見ることができるぞ。銀色のシェービング・クリームみたい。ちゃちいと言って笑うのもいいが,特撮陣の苦闘をしのびつつ見るのもまた一興だ。

ところで,映画の最初の方で不時着した旅客機の折れた翼などが燃えているシーンがあるのだが,その炎の大きさが意外なほど自然なのである。おや?ミニチュアにしては違和感がないなと思ったら,この壊れた旅客機,ほぼ実物大のセットなのだった。へえ,低予算の邦画にしては気合いが入っているではないかと今頃になって感服している。

きれいなカラーとシネスコの画面もいいし,もしかすると意外と豪華な企画だったのかもしれない。

それからヒロイン役の佐藤友美はよいね。べっぴんさんで女の色気もあって僕は好きである。昔NHKで「幻の女」という幻想的なドラマがあって,彼女はその不思議なヒロインを演じていた。その印象が強くて,以来忘れがたい女優さんだと感じていたのだが,この映画の怯えたり叫んだり逃げまどったり捕まったりという,妙に加虐心をそそる(?)色気も見どころのひとつなのかも。

なかなかのお宝映画だと思う。

吸血鬼ゴケミドロ PILD-1076
発売元(株)パイオニアLDC