ミス・ニュージャージーの特技

■デンジャラス・ビューティー■

冴えない女(の子)が奇跡のように麗しき美女に変身する,もしくは成長するという話は古今東西無数に作られてきた。マイフェアレディ型とかピグマリオン型と僕は勝手に呼んでいるのだが,要するに,一見がさつで見栄えのしないヒロインが実は磨けば光る宝石であったという展開の話である。

この手の物語ではたいてい読者や観客は彼女の真の姿を登場人物たちより先に知っている。しかし,いざその場面に立ち会うとやはり「おおーっ」と感動したいものなのだ。水戸黄門の印籠を見たときのように,予定調和を楽しみたいのである。

したがってこういう話を作る場合は,そこへ至る演出を十分に練ってもらわないとこちらは感動し損なってブスブスとくすぶってしまう。よくあるパターンを面白く見せるには演出家のただならぬ実力が必要なのだ。

「デンジャラス・ビューティー」は色気ゼロで腕っ節には自信ありというFBIの女性エージェントが,爆弾魔の捜査のためにミス・コンテストに出場する(潜入捜査ね)というお話である。当然,がさつな女ダーティー・ハリーは不本意ながら磨きをかけられて見違えるような美女に変身する。つまりモロにこのパターンを使っているわけだ。

それがうまくいったかどうかはこの作品の評判が示していると思うが,僕なら監督に「おめー,このネタならあと10倍は面白くできるだろーが!」と両耳をペンチでねじり上げながらささやいてあげたいな。日本の漫画家なら十分にそれだけの話を描けるぞ。

とはいえ,お気楽に楽しめるのも娯楽映画のよいところ。そういう意味では実にアメリカ映画らしいフツーの出来なのかもしれない。

この映画ではミスコンの内側も描かれているが,当然のことながら僕などにはそれがどのくらい実態に即しているのかわからない。現実もこんなものなのか,それともずいぶんデフォルメされているのか。口をそろえて「世界平和です」とコメントしなきゃいけないらしいあたり,いささか皮肉も入ってるのかな。

さて,本編にはミスコンの出場者たちが各自の特技を見せるシーンがあるが,そこで無芸ながさつ女の主人公が披露したのが「グラス・ハープ」である。グラス・ハーモニカとも言うが,要するに水を入れたグラスの縁を指でこすって「ぽよよーん」という音を出すアレである。

これはけっこう歴史のある技術で,彼女がやったような音階ごとにグラスを並べてなんとか演奏できる隠し芸レベルから,本当にグラス・ハープを名乗れるプロクラスまで様々だ。僕はたまたまCDを一枚持っていたのでこのシーンで思わずふふふとニヤついてしまった。DVDではチャプター16の53分ちょうどあたりから。

ちなみにヒロインが演奏していたのは誰もが知ってる「ドクトル・ジバゴ」のメイン・テーマだ。名曲〜。なお,作中では彼女のもうひとつの"特技"も披露されるが,そっちの方はまあ各自でご確認あれ。

デンジャラス・ビューティー DL-18976
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ