ジャイアント・バンザイ

■アイアン・ジャイアント■

映画にしろその他のジャンルにしろ,普段からなるべく幅広く楽しみたいと思っているし,ここでもそんなふうに書いてきた。にもかかわらず,僕にもいまだに偏見や固定観念はある。それはもういろいろあるんだけど,海外製の2Dストーリーアニメに対する偏見もそのひとつだ。

ハリウッド製3Dアニメは(少なくとも我が国まで入ってくるような作品は)たいへん面白いし,出来も上々である。アメリカ娯楽映画のノウハウそのままに作られているので見事な映像,サウンド,ストーリー,演出,どれをとってもぜいたくで王道的な娯楽に仕上がっている。

対して2D作品,それもアート系を除くストーリーアニメとなるとまだまだ日本アニメのオタク的こだわりと面白さの独壇場だ。そりゃーもう確固たる信念でそう思っていた。思っていたのだが……それはやはり偏見であった。"中華思想"にとらわれていたのは自分も同じだったのだ。そのことを教えてくれたのが「アイアン・ジャイアント」である。

宇宙から落っこちてきた巨大ロボット。無垢で優しい巨人。しかしすごいパワーを持っているため軍隊や政府機関から狙われ,主人公の少年ともどもハラハラドキドキの展開,そして最後に……という実にありがちなお話である。ほとんど「E.T.」じゃんと言われそうだ。しかし,ここで大切なのはその見せ方,語り方である。これが見事だ。

日本のアニメになじんでいると,海外作品はまず絵柄からして感情移入しにくいものだが,この映画は見事な演出でその壁を突破している。いやあ〜感動したねえ。正直に言うけど僕はこれを見て不覚にも涙ぐんでしまったよ。

あまりにも純粋な心を持った力持ちの大男,というキャラクターは昔からひとつの典型,あるいは類型としてよく登場したが,それがよく見るパターンであればあるほど演出(監督)の責任は重大だ。上手ければ「使い古されたネタをよくぞここまで」と賞賛されるし,下手なら「オリジナリティのかけらもないワンパターンの展開」などと罵倒されてしまう。

その点,この「アイアン・ジャイアント」は実に上手い。人間の登場人物たち以上に,無骨で一見古くさいデザインの巨大ロボットに大きく感情移入させてしまう力があるのだ。クライマックスの「スーパーマン……」のセリフに目頭が熱くなっても決して恥ではないぞ。

だから本当はそうした派手なシーン,ぐぐっと盛り上がったシーンを取り上げてもいいのだが,ここでは中盤ののどかなシーンに触れておきたい。主人公の少年とジャイアントが水遊びしている場面だ。少年が「バンザイ」と叫んで池に飛び込むとそれをマネてジャイアントも「バンザーイ!」と飛び込む。盛大な水柱が上がって……というユーモラスなシーンだが,少年と巨人の楽しげな様子が微笑ましい。

うちの初期版DVDではチャプター19の48分15秒あたりから。ここだけ見ると特になんてこともないのだが,こうした穏やかなパートを一緒に経験していればこそ,後に巨人が怒りをあらわに軍隊を蹴散らす展開に,見ている側の感情も激しく共鳴するのだ。

海外のストーリーアニメに対する偏見をあらためさせてくれる名作。ラストシーンの幸福感も格別だ。DVDもリーズナブルだし未見の方はぜひ,と言っておこう。

アイアン・ジャイアント DL-17644
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ