草の想い

■ふたり■

好きな映画は何度でも見たい……かと言うとそうとも限らない。傑作・名作といえども感動のありようはさまざまであり,ぱあっと楽しいアクション大作みたいなものはともかく,切ない話や悲しい物語にはまた別の受け止め方がある。

大好き!だけど何度も見るのはちょっと辛い,そんなタイトルは誰にもひとつやふたつは思い当たるのではないか。

大林宣彦監督の「ふたり」は僕にとってそんな映画のひとつである。

新・尾道三部作の第一作であるこの映画,ちょうど10年前(今は2000年秋)の作だ。僕は原型となったNHK版を見たことがなく,LDでリリースされた劇場版が初見だった。表現に困るが,なんと言うか遠い日の激情が胸の中で吹き荒れるような,たとえようもなく切ない物語である。大林ムービーの最高傑作にあげる人も多い名作だ。

大好き!でも再会は10年に一度でいい,そんな風に感じた映画だった。

さて,なんと言ってもこの映画は久石譲の音楽が絶品で,作品の感動と密接不可分と言ってもいい。実にエモーショナルで心に残る音楽である。もう迷わずサントラを買った。そして聞くほどに耳について離れないのがメインテーマとも言うべき「草の想い」という曲である。

この曲は作中でも主人公の石田ひかりやその姉(の幽霊)役中嶋朋子をはじめ何人もが歌っているのだが,映画が終わる頃にはすっかり頭の中でリフレイン状態になること間違いなし。それほど印象深い名曲である。

形見のような中嶋朋子の哀切な(映画の中ではそんな風に聞こえる)歌も非常によいのだが,ラストに流れる大林監督自ら歌うバージョンが僕は大好きである。本当は大林監督と久石譲のデュエットなのだが,その美しいメロディと柔らかく包容力のあるおじさま声?はまことに素晴らしく,感動的でさえある。つくづく歌というのは上手下手だけではないのだなと実感する。

LDではもうラスト,ディスク2サイド1の37分16秒あたりから。僕にとっては涙腺を刺激される曲の筆頭だ。

これを聞きつつエンドタイトルロールを見ていると「ああ,いい映画を見たなあ」という深い気持ちに包まれるのである。今はまだ若く,前だけを見つめて歩いている人たちにはこのセンチメンタルな世界は反発せずにはいられないものかもしれない。が,そんな人にもいつかはこの映画の想いが伝わる日が来てほしいものだ。

作者の久石氏はよほどこのモチーフが気に入っていたようで,後に「紅の豚」でもアレンジして使われている。聴き比べてみるのもいいだろう。

ふたり ASLD-1017
発売元(株)アミューズビデオ/パイオニアLDC