ノン・ワイヤーの実力

■ドラゴン 怒りの鉄拳■

SFXあるいはVFXといった映像技術の進歩もあって,最近のアクションシーンはずいぶん様変わりした。こんなシーンまで実現できちゃうんだ!と驚くことも少なくない。特に人物のアクションとなるとワイヤーアクションやCGなど,東西の技術が融合して明らかにかつてとは違うビジュアルになっている。

それはそれでたいへんエキサイティングで面白いのだが,僕自身の好みで言うとワイヤーワークは使いどころを慎重に選んでほしいなと思わないでもない。

殊に格闘シーンでは,重力を無視したワイヤーアクションは作品の世界観を左右するのではないかと感じていた。つまり「それはないだろ」か「それもありかな」のどちらに針が振れるか微妙なところだと思うのだ。カテゴリーが違うとでも言おうか「スウォーズマン」ならOKだが「燃えよドラゴン」ではたぶんNOというぐあいにね。

久しぶりにブルース・リーの「ドラゴン 怒りの鉄拳」の格闘シーンを見て,ノン・ワイヤー時代ならではの人体のアクションに見とれてしまった。いやあ,ブルース・リーってすごいや。ほれぼれしちゃうねえ。

スクリーンの中であれほどのパフォーマンスを見せてくれること自体が素晴らしいと思う。あの動き,構え,フットワーク,静と動の絶妙なバランス……映画の中で見せるためのアクションとして,本当に見事な出来だと思う。細かなカット割りで動きをごまかすことなく,むしろ固定に近い画面で彼の高度な体術を見せつけてくれる。

ちょうどフレッド・アステアやジーン・ケリー時代のミュージカルが,長回しで彼らのものすごい技術を見せてくれたのと同じだ。古典的だが撮影技術に頼らない圧倒的なパフォーマンスがここにある。

もうたいていの人が見てると思うのでいちいちストーリーには触れないが,僕はクライマックスの一騎打ちにもまして序盤の道場破りのシーンが好きだ。ここでは大した強敵は登場しないかわりに雑魚キャラをバタバタと倒していくわけだが,ブルース・リーという類い希なアクションスターのダイナミックな殺陣を堪能できる場面である。

DVDではチャプター3の15分20秒あたりから先。彼のアクションは1対1でも見応えあるが,こうした1対多の乱戦で更に冴える気がする。見せるための殺陣として様式美さえ感じさせるほどだ。取り囲む大勢の敵,緊張をはらみつつも優雅に上着を脱いで上半身裸になるリー(お約束ね),閃くように静と動が切り替わるアクション,超人的だが世界観を壊すほどではないその強さに思わず「かっこええ……」とつぶやいてしまう。

カンフースターは数多く生まれたが,ブルース・リーはまさにワン&オンリーのキャラクターだったのだなあ,と納得する。なにしろいまだにいろんな映画で彼の仕草をマネたシーンが作られるくらいだ。しかもそれがすぐに観客に了解してもらえるのだから,彼の影響力はまことに偉大だったとしか言いようがない。

ドラゴン 怒りの鉄拳 PIBF-1136
発売元(株)パイオニアLDC