アザラシの妖精たちの演技を見る

■フィオナの海■

子供と動物には勝てん,というのは映画に限らず演技の世界ではよく言われることだが,子供と動物が両方出ていた日にはもう大人の役者は脇に徹するしかない……かな?

「フィオナの海」はつい最近の作品だから,子供(フィオナ)と動物(アザラシたち)の演技−アザラシたちのあれも演技と言うべきなのか−は記憶に新しいところだろう。でも僕は劇場では未見だったので最近出たLDで初めて見た。なかなか気持ちよい佳品だと思う。日本では羽衣伝説として知られている話とほとんど同じだが,天女にあたるのがあちらではアザラシの妖精(セルキー)となっている。

映画本編では,いわくありげな言い伝えや幻想と現実のあいまいな描き方でなかなかよく幻想譚の雰囲気が出ている。しかしやはり可憐な少女フィオナの演技と,それにもまして印象深いアザラシたちの表情がいい。ふだんはアザラシとオットセイの区別もつかない観客が大部分だと思うが,話が話だけにここでのアザラシたちの顔(まさに個性を持った顔なのである)にはなにやら不可思議な深みをさえ感じる。

まず物語冒頭,ひとり海を渡ってきたフィオナを待っていたかのように,じっと海から船上の彼女を見つめるアザラシの顔がいい。サイド1の6分7秒あたりだ。見つめ合う二人?にドラマの予感といったところだろう。文字にすると噴飯ものだが,シーンの方は意味ありげな視線の交錯がいいぞ。そしてサイド2の35分48秒あたりでクライマックスの感激にひたるのである。ここでのアザラシたちの熱演を見よ。

後で考えると理屈に合わない部分も多々あるのだが,この善なるものを信じる姿勢をもってよしとしよう。アイルランドの空と海はやけに暗く,灰色にたれ込めた雲のイメージが画面からも濃厚だが,それでも灯火の暖かみは伝わってくる。遠くセルキーの血を引くフィオナの海は小さな奇跡を抱いて霧の中にけむる。

う〜ん,いい映画じゃないですか。

フィオナの海 ASLY-5018
発売元(株)アミューズビデオ