自分を殴り倒す!

■ファイト・クラブ■

これを書いているのは2005年の5月。巷では次世代DVDの規格統一問題がたいへん厳しくなってきたというニュースが流れているそんな時期,現行のDVDはどうなっているかというと少なくとも旧作に関しては終末的様相を呈している。すなわち怒濤の値崩れ状態だ。

一枚平均千円で買えるというのはすごいなあ。これならあわてて新作を追いかける必要もない。ゆっくり名のある旧作をいろいろ集めているうちに比較的高かった新譜も値下げになる。それから買えばいいわけだ。そんなわけでふらっとお店に入って廉価コーナーから何枚か選んだ中の一枚がご存知ブラッド・ピットの「ファイト・クラブ」。たったの999円なり。いいのかこの値段で?

今ごろなの?と言われそうだが,かつての話題作をこうして(映画興行風に言えば)二番館,三番館に流れてきたころにおもむろに鑑賞するというのもいいもんだよ。話題になっていたころの予備知識もすっかり忘れてるからかえって新鮮だ。

しかしこれ面白かったねえ。僕は最近はオリジナル音声にはさほどこだわらなくなったので吹替えで見たんだけどそれで正解だと思った。相当に凝った話なので字幕では半分も伝わらないんじゃないかな。そのあたり今度は字幕で見てニュアンスの違いをどのくらい感じるか確かめてみようと思っている。

それにしてもブラピ扮するタイラーの個性も主人公の個性も実に危なくて病んでいる感じがいい。そのあたりの異常さは台詞にもたっぷり詰まっているんだけど複雑で歯応えのある話なので一度は吹替え版も見ておくべきじゃないかな。

これは殴り合いにつかの間の開放感を求める男たちの話なのか危ないサイコの話なのかと思って見ていると最後はどう見てもファンタジー。だって主人公があれで生きてるはずはないのにアレだもんな。で現実と妄想が入り乱れる中を荒々しい魂がむき出しで突っ走っていく話……ということなのだろうか。少なくとも夜景のビル群が次々に崩壊していくラストシーンは異様に幻想的だ。

この語り口にハマってしまうと後々かなり癖になりそうな映画であることは間違いない。

さてこの映画,徹頭徹尾病的な話だけど見ていてその異様さにえっ?となったシーンのひとつがこれ。主人公のエリート・サラリーマンが会社の上司の前で突然自分で自分を殴り始めるシーンだ。自分で自分を殴るというのはギャグでは見かけるけど,そして普通はギャグにしかならないシーンだけどこの作品では異様に生々しくて気持ち悪い。

なんでそういう展開になるのかは各自その目で確かめていただくとして,殴る突き飛ばす血まみれになるという自分自身への暴力をここまで見せられると,目の前でこれをやられた主人公の上司がどれほど震え上がったか想像に難くない。

DVDではチャプタ−22,時間にして77分02秒あたりのところ。自分で自分を殴るといえば今までの僕は「うる星やつら」のドタバタが真っ先に浮かんでいたんだけど,これからはそうもいかなくなりそうだ。ともあれアブナイ映画だったなあ。これは1999年の作品だけど,キャンペーン価格とはいえたったの999円でこの濃密な139分を買えるという今の状況もまた終末的,世紀末的であるような気がするな。未見の方はぜひ一枚とお薦めしておこうか。

ファイト・クラブ FXBNB-14254
発売元(株)20世紀 フォックス ホーム エンタテイメント ジャパン