妖精たちのお引越し

■フェアリーテイル■

コティングリーの妖精事件といえば,昔から「妖精写真」として有名なあの事件だ。不思議譚や怪事件の類いの話が好きな人ならよくご存知だろう。時は第一次大戦下,イギリスの片田舎で二人の少女が「妖精」の写真を撮影したとして騒動になった。当時のカメラと写真技術ではなかなか真贋がはっきりせず,有名人コナン・ドイルまで登場してさらに話題となった。

記事も著作もいろいろあるのでご存知の方も多いはずのこの事件,映画にもなっている。97年の作品「フェアリーテイル」はストレートにこの話を描いている。たぶんファミリー・ピクチャーとしての位置づけでいいのかな?

あの写真を見たことのある人なら一見して「いくらなんでもインチキだろ」と思うかもしれないけど,結論が出るのは当の二人の少女が晩年を迎えてからだ。そのあたりのことは各自で検索でもしていただくとして,映画の方は心温まるファンタジーとして描かれている。田舎の風景,特に緑がきれいで気持ちいい。

二人の少女は可憐だが,周囲の大人たちはそれぞれ痛みや陰を抱えながら妖精の実在をめぐっての騒ぎに巻き込まれていく。まだ朴訥な時代の人々であっても新聞記者や野次馬の人々の反応は現在と同じだ。あの無神経な俗物根性には苦笑してしまうよね。21世紀の今でも人の心はちっとも進歩していないことがわかってしまうから。

この映画は最初から妖精たちが登場するファンタジーなので,彼らが乱舞するシーンもいいけど,僕がちょっと笑ったのは中盤の騒動の部分。妖精の存在が大々的に報道されて物好きな人々がどっと押し寄せるくだりだ。人は昔から同じこと繰り返してるんだよねー。

でもって,妖精捕獲に押し寄せた人々を尻目に,騒ぎを嫌った妖精たちは森から集団でお引越しをする。車が通り過ぎた後の道を小さな妖精の一団が渡っていくシーンだ。これが日本人の僕たちだとあのカルガモ一家の道路横断をちょっと連想させておかしい。

飛べるんだから羽を使えよというツッコミはなしね。ここは歩いて渡るからユーモラスでおかしいのだ。DVDではチャプター28,時間にして67分16秒あたり。

ところで,見てる間はアーサー・コナン・ドイル役がピーター・オトゥールだってことに全然気がつかなかった。いい老け方したんだなあと思ったけど,それだけアラビアのロレンスの印象が突出してたってことかな。

映画冒頭に舞台のピーターパンの「宙吊り」シーンが出てくるけど,あれはこんな時代からやってたんだなというのがちょっと目からウロコ。もっと後代の技術だと思っていたよ。僕には初代榊原郁恵(81年だって)のイメージがあるせいかな。笑ってください。

フェアリーテイル PIBF-1161
発売元(株)パイオニアLDC