焼かれゆく読書人

■華氏451■

久々に「華氏451」を引っぱり出して見る。真夜中だったのであの乾いた風が吹いているような管理社会がよけいに印象的だった。忘れがたい映画のひとつだと思う。

もちろんブラッドベリ&トリュフォーという強力タッグもすごいけど,僕にはこの作品を好きな理由がもうひとつある。実はむかーしテレビの洋画劇場で見て以来,ジュリー・クリスティという女優さんがなぜか忘れられないのである。他の作品は全然見ていないし,肝心の「華氏451」さえLDで再見するまでろくにストーリーも覚えていなかったくらいだから奇妙な話ではある。

しかし久しぶりに見た本作はやはり独特の雰囲気があって必見の1本だ。雰囲気というのは言葉で表現するのがとても難しいんだけど,執拗にテレビのアンテナを映し出すオープニングからして尋常ならざる気配である。えっ?となることうけあいだ。確かに映画本編のイントロなんだが,一瞬予告編が始まったのかと錯覚しそうになる変わりダネである。

ふた役のジュリー・クリスティは昔の印象どおりでやっぱりよいね〜。それに,あらためて見ると登場人物の描写や細かなカット,画面の色調や妙にうすらさびしいモノレールの風景などのディテールがとても印象深く,思っていたよりずっと密度があった。ついでに,ちょい役のマーク・レスター坊やも懐かしい。

さて「華氏451」といったらやはり中盤のあの秘密図書館のおばさんが焚書の炎の中に立ちつくすシーンが印象的だ。ここだけははるか昔のテレビ放送時の記憶も残っている。なにしろ「殉死」だからおばさんの顔にも鬼気迫るものがあるのだ。しかも目をむいているとか怒り狂っているとかいうのではなく妙に恍惚とした表情に見えるのが怖いところである。

LDではサイド2の11分35秒あたり。ここでいろんな本が炎の中に消えてゆくのだが,どんなタイトルがあったかコマ送りでチェックしてみるのも面白いかもしれない。日本人にとっては原書だが知った作品もあったぞ。

それはそうと,物語終盤には本を所有する代わりに1冊の本を丸ごと暗記して自らが本そのものとなった「本の人々」が登場する。ラスト近く,彼らがめいめいそらんじている本を暗唱する場面にはなんと日本語も混じっていた。

……疑い深い性格の持ち主で,他人の陰口,なにかと……

と聞き取れる。うーん,これだけじゃ短すぎて何という作品の一節なのかわからない。いったい誰の何という本だったのだろうなあ。

華氏451 PILF-1810
発売元(株)パイオニアLDC