氷の天使

■シザーハンズ■

ティム・バートンってとことん異端者の悲哀のドラマが好きなんだな,などと思いつつ見たのが「シザーハンズ」だ。実際にはそんなに単純な動機だけで生まれた作品じゃないんだろうけど,現代のおとぎ話としてほろ苦くも哀しい物語であった。

純粋なハートを持った異能の人が俗物たちの街に降りてくれば,いずれは悲劇に終わることは容易に想像がつく。ストーリー自体おなじみのものだが,それでもエドワードの物語からは愛や哀,孤や純といったイメージが嫌味なく漂ってくるのを感じる。哀しいけどいい話だよね。

監督がイメージ優先でやってるのかどうかは僕にはわからないが,序盤の,化粧品セールスの女性が丘の上の屋敷を訪れるシーンからしてすばらしいと思う。あのビジュアルと音楽だけで「ああ,ティム・バートンの世界だ〜」と皆が納得するに違いない。具体的にこれこれとは言えないが,作品世界の匂いみたいな個性が感じられるからである。

日常的な欲や偽善に満ちた街の人々は俗物そのものに描かれているが,あの箱庭というかやけに作り物っぽい住宅地の風景自体,見るからに小市民の家並みという感じで特徴的だ。あれもまたビジュアル的な演出を明確に感じるながめである。

エドワードのハサミの芸術的なカッティングの腕前が発揮される場面はひとときホッとするシーンで,庭の植え込みや犬の毛やおばさま方の髪型まで,カットする彼のちょっとアーティストっぽい仕草が微笑ましい。残念ながらそんな心地よい世界を台無しにするのもやはり俗人のサガ(性)なのだが。

そのエドワードのカッティングの最も劇的な作品がクリスマスパーティの夜に刻まれた氷の天使像だろう。物語の情感もぐぐっと盛り上がるシーンで感動的。監督もここを大切に描きたかったんだろうなという名場面だ。ヒロインへの秘めた思いがあの天使像を刻ませたのだろうか。

DVDではチャプター19の76分02秒あたりから。削り飛ばした氷のかけらが雪のように降り落ちる中でヒロインが踊る光景は美しい。そしてそのまま物語全体を飾るイメージになっていることがラストで鮮やかに浮かび上がる。そう,冒頭の20世紀FOXのマークからもうこの切ない雪の舞い散るお話が暗示されていたのである。

ティム・バートンがフランケンシュタインの物語に入れ込んでいることは彼のキャリアで明らかだが,フランケンシュタイン博士の人造人間と違ってエドワードは生みの親にもヒロインにも愛されている。だからこそ,愛の名残を刻んだ雪の降りしきる幻想はこの映画を美しくの締めくくる。

おとぎ話はこんな風に閉じられるものなのだ。

シザーハンズ - 特別編 - FXBD-1867
発売元(株)20世紀 フォックス ホーム エンタテインメントジャパン