ドレミの歌

■サウンド・オブ・ミュージック■

さて「サウンド・オブ・ミュージック」である。ご存じトラップファミリー物語だ。この作品に関してはもうこれ以上は望めないというすばらしいLDボックスが出ているので,僕自身がここで薄っぺらなうんちくを披露しても恥をかくだけである。いや名作だよなあ,の一言に尽きる。

むろん作中には名曲と名場面がてんこ盛りなのだが,僕自身は映画で初めて実物を見た「ドレミの歌」のシーンを挙げたいと思う。

たとえ「サウンド・オブ・ミュージック」を見たことのない人でも知ってるこの名曲中の名曲。あまりに当たり前すぎて名曲という意識すらないかもしれないが,これがどんなシーンで歌われるか初めて映画で見たとき,そのすばらしさに感動したものだ。

アルプスの山々と空の青の美しさ,広々とした緑と暖かそうな日差しのイメージがまことに平和で幸福感に満ちていた。由緒ある町並みと歌い踊り駆け回るマリアや子供たち。世紀末の今,世界は相も変わらず救いのない愚挙を繰り返しているが,そんなときだからこそ,このシーンのすばらしさを多くの人にかみしめてほしいと思う。人が求める世界の理想の姿は確かにここにあるのだ。

前述のLDボックスではディスク1サイド2の冒頭,チャプター20。映像にも言霊があるとしたらここは間違いなくそんなシーンだ。

ご承知のとおり,これは忍び寄るナチの影に覆われそうな世界を舞台にした物語の中の一節である。名作ミュージカルとして誕生した作品だが,期せずして人の精神と世界の輝かしい部分,沈み込む暗黒の部分を登場人物,ストーリー,映像,音楽といった映画のあらゆる要素によって描き出した類い希な傑作になっている。

意図してそのように演出されたのかそれとも偶然なのかはわからないが,映画史に永久に記憶されるべき偉業であると確信している。

ああ,でも堅い表現になってしまったな。もちろん,何をおいても楽しい映画。この作品を批判するような人間とはさっさと絶縁するのがよろしかろう。むろん,映像コレクターのみならず全映画ファン必携のタイトルである。

サウンド・オブ・ミュージック PILF-2110
発売元(株)パイオニアLDC