99年公開の「マトリックス」はその斬新な映像とアクションでずいぶん話題になった。映画のエンタテインメントとしての映像表現もここまで来たかという感じで,相当入れ込んでいる人もいるだろう。
しかし「マトリックス」を見る前にぜひとも押さえておきたい作品がある。アレックス・プロヤス監督の「ダークシティ」だ。
劇場では未見のままLDを買ってしまった作品だが,非常に面白くて得した気分になったタイトルである。だいたい未見も何も,気がついたときには劇場公開が終わっていた(そもそも公開されたことにも気がつかなかった)作品で,LDで出てくれてホントにありがたかった。
ストーリー,映像ともに「マトリックス」とは兄弟のような作品(こっちは98年作)で,これを見ているか否かで「マトリックス」の印象もずいぶん変わってくるのではないだろうか。一方は世界的大ヒット,もう一方はマニアの密かな楽しみ,と脚光の浴び方は全然違うが,僕には同格のインパクトがあった。
毎夜12時になると眠りにつく都市。住人は誰もそのことに気がつかないのだが,ある時ひとりだけ目覚めてしまった主人公の悪夢のような戦いがCGバリバリの強烈な映像で描かれる。冒頭でネタバレしているので謎解きの妙というのはないけど,そのイメージが実に面白い。
特に都市が眠りについた後,ビルがにょきにょきと生えてきて街並みが変貌していくシーンが印象的だ。
LDではサイド1チャプター8の34分41秒あたりから。意志の力で世界そのものを作り変えていくという場面なので,どのような映像で見せるかがスタッフの才能が問われるところだが,この作品では舞台となる眠れる都市の独特の雰囲気によくマッチしたイメージが展開される。僕は成功していると思うな。
日本のアニメファンにはけっこうなじみのビジョンも登場するが,こういう映画を作りだした連中には「よっしゃ,次もがんばれよ」と言いたくなることも事実。未見の方はレンタルビデオでもいいから部屋を真っ暗にして楽しんでいただきたいものだ。
文字どおりダークな物語なのだが,永遠の夜が支配する都市に太陽が昇る壮麗なクライマックスの映像も気持ちいい。闇を払い,崩壊した都市を再生し,宇宙空間に海を出現させる。その壮大な世界の誕生も実はひとりの男の切ない願いによって支えられている……。
人の想いが世界を生み出すというセンチメンタルな結末に心地よさを感じる映画だった。
ダークシティ TLL 2555
発売元(株)東宝