大魔神の憤怒相

■大魔神■

大魔神といえば日本が生んだ異色の特撮時代劇だが,なんといっても穏やかな埴輪の顔が魔神さまの怒りの形相に変化するシーンが有名だ。大魔神の映画そのものを見たことがなくてもあの眼前で両腕を交差させて憤怒の顔つきになる仕草は知っている人が多い。

大魔神の画期的なところは実に神様らしいこと,すなわち妙な人間味やヒューマニズムなどとは無縁の恐ろしい存在である点だ。乙女や少年の純粋な願いに応えて力をふるいはするが,純然たる神そのものであるから躊躇なくその力をふるう。人間の都合など知ったことではないのだ。

よって魔神さまは非情である。人権思想など当然尊重しない。ひとたび顕現すれば,悪は一人たりとも生き延びることができない。皆殺しである。善人といえども一緒にいれば巻き添えを食って死んでしまいかねない。神様の正義は峻烈なのだ。そこがいい。

大魔神は人気があって映画も3本作られたが,やはりインパクトからいっても第1作が抜きんでている。高田美和の清純なる涙は魔神さまならずとも助けてあげたくなる必殺武器であるが,なにぶんクライマックスの魔神さま大暴れのシーンが派手なので影が薄いかもしれない。

さて,今や宴会芸にさえなっている大魔神の憤怒相への変身であるが,第1作にしぼってみると,サイド2のチャプター11フレームナンバー15440あたりだった。よく見るとサイド2はCAVである。ううむ,マニアックな作りだ。

それはともかく,この第1作では憤怒の形相に変わるときのポーズはまだシンプルである。片腕で顔の前をなぞるだけである。しかし表情はこの第1作がもっとも神威と怒りを感じさせてよい。

劇中ではさんざん悪の限りを尽くした悪代官(みたいな役まわりだったか)は魔神さまに鉄の杭で串刺しにされて絶命する。この容赦のなさがよい。悪人でも人間は人間だ,などというたわけた理屈とは無縁の存在なのである。ああ,なんて爽快。

大魔神全集 PILD-7001
発売元(株)大映/パイオニアLDC