トゥナイト・オン・レノ

■スペース カウボーイ■

うーん,この人もこんな映画に出るようになったんだなあと思ったのは「スペース カウボーイ」を見たときのこと。この人というのはもちろん御大クリント・イーストウッドのことだ。こういう既に別のイメージで一家をなしたベテランが,CGやSFXバリバリの作品に出演すると聞くとなんとなく不安になるのだが,この気持ちはおわかりいただけるだろうか?

だからこの映画を見終わったときには正直ホッとしたし,そのことがうれしくもあった。イーストウッド,うまく仕上げたね。自ら製作・監督まで引き受けてこの出来なら立派な仕事ぶりではなかろうか。「ライトスタッフ」の香りも備えつつ,「アルマゲドン」ほどでたらめではない(あれはあれであっぱれだと思うが)真面目と冒険のほどよいミックスで後味がいい。王道アメリカ映画ここにありといった感じだ。

久々に引っぱり出して見たのだが,つい先月(2003年2月)スペースシャトルの悲劇的な事故を目撃したばかりなので,どうしてもあのイメージがだぶってくる。分解しながら流星となって落ちていくあの光景はあまりにも鮮烈で,不謹慎を覚悟で言えば悲しいほどに美しい散華の姿だった。

そのせいか,クライマックス以降,時々鼻の奥がつんとなるのを感じてしまった。最初に見たときにはそんなことはなかったのだが……。ああ,本物のシャトルもこのくらい頑丈だったらどんなによかったことか。

この映画に対する感慨というのはあの事故以前と以後では微妙に違ってくるのではないだろうか。

さて,本作は衛星のトラブルを復旧するために宇宙へ乗り出していく老雄たちのお話である。友情。努力,勝利といった少年ジャンプみたいなカラーに加えて挑戦があり,陰謀があり,確執があり,ロマンスも隠し味程度にあり,という実にトータルバランスのよい出来映えになっている。こういう映画がさらっと出てくるところがハリウッドの実力だろうなあと感心する。

で,派手なシーンもクライマックスももちろん楽しめるのだが,僕が妙にうれしかったのは主人公たち老人宇宙飛行士ダイダロス・チームが人気者になってテレビ番組に出演するシーンだ。

実在の人気トーク番組(だそうだ)「トゥナイト・オン・レノ」に彼らが出演して司会者のJay Lenoの辛辣なジョーク混じりのインタビューに答えるというもので,ここでのダイダロス各人のキャラクターがいかにもそれっぽくて面白い。なんだか本物みたい,という変なおかしさがある。映画の中に別の映画やテレビ番組を劇中劇として挿入するのは珍しい手ではないけど,こんなに"感じ"が出ているのは珍しいかもしれない。

DVDではチャプター21の65分49秒あたりからなんだけど,今回のおすすめは何といってもDVDの特典映像として収録された"全長版"の方だ。これを見ると実際に本編で使われたのは撮影されたもののほんの一部だとわかるが,こちらの全長版は本編版より圧倒的に面白い。「スペースカウボーイ」を見てこれを見ないというのは画竜点睛を欠くというものだ。オマケ映像としては実にありがたいクリーンヒットであった。

最近はDVDでも同じタイトルが版を変えてちょこちょこ再リリースされるが,この全長版「トゥナイト・オン・レノ」だけはどのバージョンになっても忘れずに収録してほしいなと思う。

スペース カウボーイ DL-18722
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ