完全なる信頼のカタチ

■未来少年コナン■

宮崎駿監督の「未来少年コナン」は名場面の宝庫でもあり,ここでも前に一度取り上げたことがある。歴史的名作なので今さら僕などがあれこれコメントするのも無粋なくらいだが,たまに「あのシーンをもう一度見たいな」と引っぱり出して見る度に途中でやめられなくなり,結局最終回まで付き合ってしまう。

このすばらしい面白さの秘密は何なんだろうね。

ストーリー?キャラクター?演出?それらについての分析も山ほどなされているが,僕にとってはコナンたちの健やかな魂の強さ,まぶしさがとても気持ちいいのだと感じている。今どきの作品のキャラクターたちがことごとく病んで脆弱なのとは対照的だ。

僕たちは常に心の底でこうした肯定的で前向きな精神の強さやたくましさに魅かれているのだろう。だから,思いがけずそれをカタチにして見せてもらうと心が激しく揺さぶられるのである。コナンにはそんなシーンがいっぱいだ。残念ながら,若い世代の演出家たち(の作品)にはそういったまっすぐな強さを信じ切る確信が見えない。

何より感動的なのは,コナンたちの互いを信じるその信頼の強さである。愛なき21世紀の世界で最も希少な美徳となりつつあるその心が,この物語の心満たされる感動を生んでいる。

たとえば第18話「ガンボート」にこんなシーンがある。敵の軍艦を沈めるためにその船底に爆薬をしかけるコナン。しかしその艦内にはラナが囚われていた。それを知ったコナンはラナに「船はこのまま沈めるけど,きっと迎えに来るから信じて待ってて」と告げ(ここでのふたりの静かなやりとりがまたいいんだ),ラナの乗ったままの船を沈めてしまうのだ。

そしてもちろんコナンはその言葉どおりちゃんと救助に来るのだが,沈没していく艦内で,どんどん自分の身が水につかっていくというのにじっと彼を信じて待つラナの姿,その描き方に僕は彼らふたりの完璧な信頼を見て「おお〜」と感じ入ってしまうのだ。何という強い絆!

恋人が乗ったままの船を沈める。この選択肢は現代の主人公にはない。彼を生み出した者(演出家)にその強さを信じる心がないからだ。

コナンはまっすぐな元気少年だが,直情径行型の単純バカではない。猛進を避け,冷静に,かつ素早く状況を判断する目を持っている。ショッキングなことがあっても呆然として呆けたりする鈍さは彼にはない。そして動くときは大胆……これは本来,年季を積んだ年かさのヒーローの属性だが,コナンには少年の身体に大人の精神といった印象はない。きわめて自然にそのキャラクターを躍動させている手腕こそ宮崎監督の非凡さなのだろう。

とっくにDVDも出ている今となっては,僕の古いLDで場所を記してもあまり意味はないが,一応ボックスのサイド9,チャプター9の51分24秒あたりからとでも書いておこうか。古典的なのかもしれないが,この展開は鮮やかでドキドキして……感動的だ。

未来少年コナン メモリアルボックス BELL-328
発売元(株)バンダイ メディア事業部