映画草創期のカラー映画を見る

■Les Films Lumiere■

世界初のカラー映画ってどの作品だっけ?

マニアックな映画ファンならずとも世はインターネット時代,たぶんその気で調べればすぐわかることかもしれない。しかし映画史的にはともかく,フィルムに色を付ける試みは映画の歴史の最初期から行われていた。たとえカラーフィルム発明以前といえども手はあったからだ。

そう,まさしく"手"があった。

明治時代,日本を訪れる外国人に土産品として好まれたのが"彩色写真"である。モノクロ写真にていねいに手作業で色を塗ったものだ。独特の色あいを持った疑似カラー写真である。……とまあこれはNHKの番組で仕入れた話。テレビでしか見たことはないが,実にすばらしいものである。CGを駆使した旧作のカラライゼーションはハリウッドでも賛否両論を巻き起こしていたが,明治の彩色写真は最新技術の成果とは全く別種の味わいを持っていて驚かされる。日本人はたいした腕を持っていたのである。

つまりモノクロの時代でも手で彩色するというプリミティブな手法があったわけだ。

映画草創期の大物としてその名も高きリュミエール兄弟のシネマトグラフは19世紀末から20世紀初頭にかけて,世界中に撮影隊を派遣した。その成果は現在でも貴重な映像コレクションとなっており,そのうち数百本を収めた4枚組のLDボックスが今でも入手可能だ。数百本といっても1本がせいぜい1分間程度であるから文字通り映像コレクションそのものである。

で,その中の1本に「蛇踊り」(Danse serpentine)という作品がある。踊り子がマントのようなひらひらした衣装で踊っているだけの映像だが,19世紀末に流行した踊りだそうだ。この映像に色が付いているのである。100年も前の作品にだ。

画面全域に色が付いているのではない。ひらひらと舞う衣装にだけ着色されている。もちろん手作業でひとコマひとコマを彩色していったという労作だ。画像は古色蒼然としているのにカラーでグラデーションのついた衣装が舞っているさまは不思議なものである。しかも途中で赤,緑,ブルー,紫という具合に色調も変化する。原始的ながら演出というものが意識されているわけだ。

LDではディスク1のサイド1チャプター2である。映画100年の歴史のはじめから映画人たちの工夫は続いていたわけだ。機会があれば大先輩の仕事ぶりを見てみよう。

Les Films Lumiere COLM-6148〜6151
発売元(株)日本コロムビア