チキンパイ製造マシン

■チキンラン■

かつて「ウォレスとグルミット」のウルトラ級の楽しさにのけぞった者にとって,そのニック・パーク監督&アードマンスタジオの新作となれば,もう無条件で面白いはずと期待してしまうのは当然の反応だと思う。だから2000年の「チキンラン」でその期待を軽々とクリアしてみせてくれたときにはもうただただ拍手するのみであった。

養鶏場で明日なき日々を送るニワトリたちが自由を求めて決死の脱走作戦を展開するこのお話,全編にちりばめられた娯楽映画のエッセンスがすばらしくてよくぞまあここまで,と感動してしまう。

クレイアニメのキャラクター,実によくできたセット,隠し味のCG,構図やカメラワークのひとつひとつに感じられる映画の伝統的ノウハウ……1秒以下の短いシーンにさえ遊びがあって目が離せない。

そもそもイントロからして「つかみはオッケー」の最たるものではないだろうか。主人公のジンジャーが何度も脱走計画を実行してはそのたびに失敗してひとり独房に放り込まれるそのくりかえし。もうこの一連のシーンだけで見ているこちらはうれしくてひっくり返ってしまった。

収容所からの脱走といえばもちろん"あの有名な映画"を彷彿とさせる演出になっているわけで,映画ファンならうふ,うふふふとニヤニヤ笑いが止まらないだろう。この趣味のいい笑いや細部へのこだわり,ハラハラドキドキを堪能させてくれるセンスの良さというのは絶品だ。イギリス映画の故なのか,ハリウッドとは微妙に違う文化的香りみたいなものがあるよね。

さて,養鶏場に導入された巨大な全自動チキンパイ製造マシン。ジンジャーがその最初の犠牲者にされそうになって必至で奮闘するシーンが何度見ても面白い。ゲームの中みたいに次々に現れる凶悪な仕掛けをきわどくすり抜けていくそのスリル,スピード,見せ方の上手さ……トムとジェリーのドタバタをモダンにして立体でやってくれてるような感じだ。

DVDではちょうどチャプター15。こことクライマックスの飛行機発進のシーンがこの映画の二大スペクタクルだろう。くすぐりの利いたおとなしいシーンも大迫力のアクションシーンもそれぞれ満腹にさせてくれるのだからたいしたものである。

余談だが,ラストの看板の"BIRD SANCTUARY"の"BIRD"の部分を×で消して"chikin"と書き直してある部分で,日本語の字幕も"野鳥の楽園"の"野鳥"の部分を×で消して横に"チキン"と書き加えてある。何でもないことのようだけど,字幕ではあんまりやらない処理なので,担当さん,ここでちょっと考えたんだろうな,などと想像するのであった。

ちなみに日本語吹き替えの優香ちゃん(ジンジャー役)は思いのほかがんばっていて,僕などはオリジナル音声よりこっちの方がお気に入りになってしまった。

チキンラン ASBY-1942
発売元(株)東芝デジタルフロンティア/アミューズピクチャーズ/アミューズソフト