塀の上の世界

■PICNIC■

永らく欲しいな欲しいなと思っていた岩井俊二監督の「PICNIC」がようやく(今は2000年秋)DVDにてリリースされた。LDではついに出ることなく終わった作品なのでもちろん何をおいても買った。いやあ,DVDのラインナップもここへきて急速に充実しはじめてうれしい限りである。

実は近所にレンタルビデオ屋がないので,映画館へ行くかソフトを買うかという選択肢を外すといきなり幻の作品になってしまうのだ。ビデオ屋は歩いていけるところにあって欲しいなあ。

「undo」だけ見て「PICNIC」は未見というのは僕にはどうも不完全な体験という気分がつきまとっていたので,こうしてじっくり見る機会がきて本当によかった。今までは記事として書かれたものを読むだけだったのだ。

見終わって今「ああ,こんな映画だったのか」「ああ,こういう結末だったのか」とようやく本懐を遂げたような気分である。やはりこの2作は両方見ないと何かしら欠落感が残るのではないかな。

内容の方はあのとおり,というか見てもらうより他に説明のしようがない。解説なんかするのはかえって野暮ってもんじゃなかろうか。精神病院をモチーフにしているので,製作周辺の分別ある連中(小市民ともいう)がひびってしまいそうだが,ラストシーンの美しさが「すべてよし」と言っているような気がする。

そのラストシーンのみならず印象的なのが「塀の上」の世界だ。特にココ(CHARA)が病院の塀を越えてその先に続く塀の上へと出てゆく場面が僕はとても好きだ。塀の上だけの世界。しかし彼女を取り囲む青い空や駆け寄ってくる犬や聞こえてくる賛美歌といった風景のひとつひとつが悲しいほど済みきっている。

この作品を語る上でおそらく決して外せないであろう「まぼろしの市街戦」では患者達が街の外に出ることはなかった。街の門は開かれていてもだ。だが,ここでは新参の彼女が軽やかにその境界を飛び越え外へ出てゆく。あの一瞬,たとえ細く狭い塀の上だけの領域ではあっても,彼女は世界から受け入れられたのだと思う。

DVDではチャプター6の21分30秒というところか。ココが飛び移った隣の塀の上から見えるあの前へ続く平和そうな道,川べりの堤防の上をかける彼女と青い青い空。病院内の風景が暗く灰色に塗り込められているだけに,この無垢なシーンが忘れられない。

「undo」だけ見ていた経験がこれでやっと補完されたような気分……かな。

なお,本編では「PICNIC」と出るのだが,ジャケット類は「PiCNiC」という表記になっている。

PiCNiC PCBG-50141
発売元(株)フジテレビ映像企画部/ポニーキャニオン