馬の輪切り

■ザ・セル■

あんなとびきり美女の心理学者が存在するかどうかはともかく,ジェニファー・ロペスがサイコダイバーに扮した「ザ・セル」はなかなかに美しく,かつグロい映画だった。DVDでじっくり見るとけっこう妄想のタネになりそうで危ない。

お話はきわめて単純なので,これはやはり監督の趣味が爆発したその映像を見てくれ〜という作品なのだろう。

明らかにイメージ優先なので「ほおー」とか「へえー」とか言いつつヒロインの迷宮探索に付き合っていると,ターセム監督の嗜好がよくわかる。造形に関しては好き嫌いの領分かも知れないが,グロい部分については趣味というより悪趣味というべきかもしれない。痛そうな映画である。

ここでの精神世界のイメージは,突拍子もないものというよりはむしろ演劇的で具象的だ。ヒロインの飾り方などを見ていると監督の幻想の質が何となく感じられる気がする。シュールで独創的というより現実的な物体のイメージの組み合わせの方が得意な人なのかもしれない。

それはともかく,予告やテレビスポットですっかり有名になったあの馬の輪切りのシーンはやはりインパクトがある。むしろ予告などでは伏せておいた方が観客の印象は強烈だったかもしれない。あれが何を意味しているのかよくわからなくてもショックはある。

DVDではチャプター12の45分38秒くらいから。スライスされた身体の断面でちゃんと内臓がひくついているところを見せるあたりは徹底していると言うべきか。監督はインド出身だそうだが,にしては肉食人種の国のエグさになじんでいるようである。ハリウッドの猟奇ものって気持ち悪いのがいろいろあるからなあ。

そういえば,小松左京の初期短編に身体の右半分だか左半分だかが別の世界へ行ってしまい,その境目には生きた断面部がグロテスクにも見えているという男の話があった。今ならバッチリ映画化できるわけだ……遠慮したいけど。

しかし「CUBE」の人間賽の目切りといい,この映画といい,あるいはあまたのスプラッタ作品といい,人間は生き物を切り刻むのが本当に好きだねえ。映画にはこういう人間の本性もまたにじみ出してしまうのだろうか。

実際,生き物(人間を含む)を輪切りにしたいという妙な欲望はもしかすると本当にあるのかもしれない。海外の博物館には輪切りにした人間の身体が展示されているところもあるし,日本でもそういう催しがあった。そんなもの見たいかねえと思うが,見てみたいという人はそれなりにいるらしい。ううむ。

ザ・セル 特別プレミアム版 PIBF-1369
発売元(株)パイオニアLDC