カラスの階段

■猫の恩返し■

僕は実は森田宏幸監督の「猫の恩返し」が大のお気に入りである。公開時には密かにリピーターになっていたくらいだ。でもこの映画,なぜか僕の周りではみんな「いまいち……」としか言ってくれない。こんなにチャーミングで楽しい作品なのに解せん話である。。

ジブリアニメ=宮崎アニメではないのに,みんな宮崎アニメ用のものさししか使おうとしないから期待はずれと言われてしまうのか。作画もキャラクターも演出も美術も……違う作り方をして違う面白さを実現してると拍手してあげたいがなあ。160キロの豪速球もすごいけど,チェンジアップだって効果的なんだぞ,と言いたいところだ。

何が好きといって,主人公のハルちゃんのライトなノリとリアクションがまことに心地よい。僕は世代的には宮崎監督の美意識に共鳴するけど,この作品の軽〜い今風のタッチになぜかぴったり波長が合ってしまった。それはもう"合ってしまった"としか言いようがないのである。ま,惚れてしまうのに理屈は無用ってことだね。

ヒーロー役のバロンの堂に入ったキザ男ぶりも微笑ましいが,ハルちゃんとムタのかけあいが妙に力が抜けてて笑ってしまう。間というかタイミングが微妙に空いてて可笑しい。あのふたり?けっこういい組合せではないだろうか。ムタは愛想が悪そうだが,実は主要キャラクターの中ではいちばんまともなリアクションをしている。だからよけいに可笑しいのかも。

それと声。バロンはまことにいい声してるし,猫王役の丹波哲郎,とおっっっても上手い!僕はアニメに関しては本職の声優さんを優先してよ〜と言いたいのだが,この映画についてはキャスティングがたいへんうまくいってると思う。

ところで,この映画ではハルちゃんとお母さんの友だち母娘ぶりがさらっと自然体で,父親の影が全くない。きっとそれなりの家庭の事情というのがあるんだろうけど,そういう部分を感じさせない世界観になっているんだね。これがきっと森田監督が選んだトーンなのだろう。

ともあれ楽しい映画である。今回は名場面としてクライマックスのカラスの階段のシーンを取り上げておこうか。DVDではその少し前,ハルちゃんが空から落っこちるシーンから見ておこう。チャプター11の64分20秒あたりだ。深刻な話ではないのでカタルシスもライトバージョンといったところだが,空から落下しながらもギャグをかましているヒロインというのがいいねえ。

長い手足を持て余し気味のハルちゃんは,基本線はマジメだけど肩に力が入りすぎない軽さが思いの外かわいい。だからDVDが出た今,僕はたいへんご機嫌なのである。

猫の恩返し VWDZ8046
発売元(株)ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント