キャシャーン vs 爪ロボ

■CASSHERN■

2004年前半最大の話題作は「イノセンス」であろうというのはたぶん間違いないと思うが,ちょっと待て,もうひとつあったぞと言いたい。紀里谷和明監督の「CASSHERN」である。待望のDVDがリリースされ,何度も見直すに至ってその思いを強くしているところだ。

公開当時の反応は「イノセンス」が賛否両論なら「CASSHERN」は賛憎両論といった感じで,否定派の執拗な罵詈には,よくまあ映画ごとき(あえて言うけど)にこんなにも敵意や憎しみをぶつけられるものだと驚いた覚えがある。映画の感想にルサンチマンのような一面を見たのは「パウダー」以来だ。

それはともかくこの作品,個人的には今回DVDが出たおかげでずいぶん明解になった。劇場ではその八方破れのパワーとインパクトのみ印象が強くてストーリーには?の部分も多かったのだが,やはり家庭で見るといろいろ見通しがきいてわかりやすい。

おかげで一段とお気に入りの作品になったことは確かだ。伝統的なセオリーに反している部分も多々あるのでどうしても受け入れられない,それも絶対にダメという人は当然いるだろうけど,僕には当たりだった。支持できることをうれしいと思う。

全体的にカタルシスに乏しい話なのでヒーローものを期待していた人にはウケが悪いかもしれないが,それでも中盤のキャシャーン対爪ロボ軍団の戦闘シーンは燃える。うおおーと燃える。ここは紀里谷監督,原作に対して最大限の仁義を切ったなといえるシーンであり,ふつふつと血がたぎる人も少なくないはず。

ここがあるから尚更ハリウッド型の明快なヒーロー作品を望む人たちには無念の思いがつのるのだろうけど,この映画の暗い破滅的なトーンの中,蒼白い月をバックに戦うキャシャーンのこのシーンは鮮烈だ。

DVDではチャプター9,時間にしてちょうど1時間少し過ぎくらい。ここに限らずこの映画には印象的なシーンがてんこ盛りで,それらをもう一度見たいがためにDVDプレーヤーのボタンを押してしまうようなところがある。雪山のシーンなんか本当にいいよ。亡くなった赤ん坊を雪に埋める場面からブライの悲痛な叫び,奇跡のように出現する城塞と続く流れが大好き。

いろいろ叩かれていたけど,本当に駄作なら名場面の宝庫のはずはないだろう?

キャストの中ではブライ(ブライキング・ボス)を演じた唐沢寿明が間違いなくMVPで,主人公には感情移入できなくてもブライにはものすごーく肩入れしてしまう。そう演出されているからではあるけど,彼の芝居は実によかった。軍部の建物の屋上で国旗をまとって月下の街並みを見下ろすシーンはポスターにしたいくらいカッコいい。

とにかく役者たちの熱演が見事で,この映画のグレードを上げてるのは確かだと思う。ルナは美しいし,東博士の渋い声もいいねえ。邦画の中にあっては類を見ない異色作だが,悲惨な話なのに何度でも見たくなるというのは今の僕の正直な感想だ。「CASSHERN」は激情の映画である。

CASSHERN ULTIMATE EDITION DA-0452
発売元(株)松竹ビデオ事業室