囚われの美女と幻想の館

■囚われの美女■

ハリウッド・スタイルというのは今の映画の主流ではあるけれどももちろんそれがすべてというわけではない。ただ,想像力不要の娯楽映画に慣れているとあまりにらくちんなので,そうではない映画にぶつかったときに拒否反応を示す人は少なくないだろう。

曰く「一度見てわからない映画は失格でしょ」「観客の視点に対して全く配慮がない」などという非難が続出するわけだ。難解=駄作と短絡してしまう前に考えることはいろいろあるはずなのだが,面倒なことはイヤというのが本音なのだろう。

でもせっかく映画にはいろんなスタイルが存在するのだから,見る側だってできれば違うタイプのものに寛容でありたい。でなきゃ好みがどんどん狭くなる一方でもったいないよ。面白いものはハリウッドだけにあるわけじゃない。ま,そうは言ってもいきなり「去年マリエンバートで」に当たっても玉砕するのがオチかもしれないけどね。

その「マリエンバート」の脚本を手がけたアラン・ロブ=グリエが監督した「囚われの美女」はまことに不可解で幻想的な作品だ。「マリエンバート」ほどではないけどはっきり言って難解。歯ごたえあるぞ。

ロブ=グリエといったら僕の中ではシュールな小説書く人というのが第一のイメージなのだが,この映画もその期待(?)を裏切らない。ストーリーを書くだけ無駄というもので,観客は映画が提示する様々なイメージやエピソードの断片を全力でつなぎ合わせる作業を要求される。口を開けていれば餌が落ちてくるという映画に慣れている観客には苦痛だろう。

しかし,一方でこうした作品が根強く支持されるのはそういう知的格闘を楽しむ人もまた存在するということだ。事実,こういう手法は小説好きならけっこうなじみのあるものだろう。気楽でない見方もまた楽しみにできることを知ってほしいと思う。

そんなわけでこの映画の感想はとても個人的なものになる。組み立て作業は観客次第なので見終わった人同士が話しても別の映画の話をしているように感じられるかもしれない。それもアリだというのがこういう作品の特質である。

僕が最も好きなイメージは序盤に登場する館のシーンだ。車の前で倒れている謎の美女を拾った主人公の男は,女の手当のために医者に連絡するべくある屋敷に駆け込む。そこで奇妙な夜会の男たちが主人公と女を取り囲み……というシーンである。

拾った女はなぜか後ろ手に鎖で拘束されていてこれが妙にそそるのだが,館の玄関を男と女が入っていくシーンから続いて怪しげな男たちとのかみ合わないやりとり,女の表情,カメラの視線,色と照明,そういったものが様々なイメージをかきたてて刺激的だ。この一連のシーンには妄想を呼び覚ます力がある。DVDではチャプター4,時間にして14分15秒あたりから。

難解な代物ではあるが,幻想小説を読んでいる感じで見ていると納得できる世界なので機会があればぜひ一度,と言っておこう。ちなみにロブ=グリエ監督の他の作品は同様に難解らしくて他は日本未公開とのこと。そうだろうなあと納得できるのは確かだ。

囚われの美女 IMBC-0085
発売元(株)IMAGICA/パイオニアLDC