空の葬列

■紅の豚■

宮崎駿監督の「ハウルの動く城」はまだ劇場で公開中(今は2005年2月)なので,ビデオ化されたものを対象にしているこのコーナーでその話ができるのは当分先。でもいろいろ語りたい気持ちも抑えがたい……というわけで最近は監督の旧作,千尋やポルコやキキのDVDで渇きを癒しているところだ。

「紅の豚」については前にも触れたことがあるけど,この作品はとにかくこちらの琴線に触れるところが多くて何かにつけ引っぱり出して観ている。

今さら言うまでもないが,問題意識より娯楽性優先,それでいて「ええもん見たなー」という満足感はひとしおという大人のための漫画映画だ。普通ならアニメーションとかエンタテインメントといった言葉を使いたいところだけど,この映画には漢字の「漫画映画」という字面が似合っている気がする。

古びないタイプの映画であることは確かで,この先何十年も楽しめることは間違いないと思っている。そういう作品が観客としての自分のキャリアの中に存在することがとてもうれしい。

好きなシーンはいろいろあるし,キャラクターもみな魅力的だけど,特に印象的だったのはポルコがフィオに語って聞かせる昔話のくだり。彼が若い頃に遭遇した空の上の神秘的なエピソードのシーンである。

しんとした雲の上に広がる異界。空の高みを一筋流れる雲が,散っていった飛行機乗りたちの葬列であることが静かに描かれる。楽しいドタバタで笑っていた観客もふと口をつぐみ,ほんの一瞬,何か厳粛なものが首筋をさっとなでていったような気分になる……。

いやーあそこはよかったねえ。僕はこの作品全体がドタバタ活劇に終始してもいっこうにかまわないんだけど,あのシーンがはさまれることで映画の格がひとつ上がったんじゃなかろうかと感じている。何度見ても名場面だなあと思うよ。

DVDではチャプター14から15にかけて。時間にして68分12秒あたりからかな。ここはポルコとフィオの芝居がとてもいいところなのでチャプター14のはじめからと言った方がいいかもしれない。

監督ご自身のコメントなどを読むと,この映画については自分の趣味に走りすぎたと気にしておられるようだが,封切り以来の「紅の豚」ファンのひとりとしては「監督の趣味おおいにけっこうだと思います。どんどん趣味に走ってくださぁい」と声を大にして言いたい。この出来で反省されたら世界中の映画監督は立つ瀬がないよ。

どうも「紅の豚」の話になるとテンションが上がってくるのを抑えられない。でも正直な話,評論家面してこの映画にケチをつけるようなやつを人類の一員と認める気はさらさらないし,そういう方々は即刻この星から退去していただきたいというのが僕の偽らざる心境なのだ。この映画に関してだけは自分のそんな傲慢なコメントも許せてしまうのである。

紅の豚 VWDZ8022
発売元(株)ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント