ビリー・エリオットのクリスマス

■リトル・ダンサー■

映画のモチーフにはいろいろあるけど,ミュージカルとは別にダンス映画というのも明らかにひとつのジャンルだ。ザッツ・エンタテインメント時代のMGMミュージカルなどはどちらとも言えるけど,近代の「サタデー・ナイト・フィーバー」とか「フラッシュ・ダンス」以降の作品ははっきりとダンス映画と言えるものが多いと思う。

これはハリウッドの話だけどイギリス映画ではそのへんの事情はどうなのかな。「リトル・ダンサー」を見た時に感じたのは「あ,やっぱりハリウッドとは違うなあ」ということ。イギリス映画のカラーには確かに英国風味とでもいったものがあるんだけど,この映画にもハリウッド的快感原則とは違う,曇り空的重い日常みたいな雰囲気がある。

サッチャー政権下の炭坑ストの街ダーラムで,母を亡くして一家の歯車がきしんでいる主人公ビリー少年の一家。ボクシング教室に通う彼はふとしたことでバレエに興味を持ち,父親が苦しい生計の中から出してくれたボクシング教室のためのお金でこっそりバレエを習い始めるが……。

地方に閉じ込められた労働階級の鬱屈した人生観・価値観の中では男の子がバレエなんてとんでもない,男はサッカーやボクシングをやるべきだという空気が濃厚。そこからいろいろあって少年は見事に羽ばたくことになるわけだけど,そこに至る展開はけっこう痛い。今さらだけど人生は辛いことも多いんだねえって感じ。

というわけで,作中にはビリーのダンスシーンがいくつもあるんだけど物語のターニング・ポイントになるクリスマスの夜のパートが印象的。わが子を理解しようとしない頑固な父の前で初めて少年が踊ってみせるシーンだ。それまでバレエなんて一顧だにしなかった父は息子の才能に心打たれて考えを改めることになる。

DVDではチャプター25,時間にして69分34秒あたりから。不器用な炭坑夫が息子をロイヤル・バレエ・スクールのオーディションに送り出す決心をするわけだからこのシーンは重要だ。踊ることを心から楽しいと感じている少年の気持ちが躍動感として伝わってくるようでなきゃいけない。ビリーの動きが少しずつ大きく激しく,そして大胆になっていく感じがいいよね。

余談だけど,ラスト,彼の親友でゲイのマイケルが成長したビリーのステージを見に来ていて久々に再会したビリーの父親たちに「これは見逃せない」と言うシーンがある。僕は最初,旧友が一流のダンサーになったからその晴れの舞台は見逃せないという意味だと思ってたんだけどそれだけじゃなかったんだね。

裏設定だと思うが,ここでビリーが踊る「白鳥の湖」は白鳥たちを皆男性が演じるAMP版「白鳥の湖」ということになってるらしい。だから子ども時代から女装趣味でゲイになったマイケルにとっては因縁のある演目なのだと,たぶんそういう含みなんだろうなと思った。

リトル・ダンサー ASBY-5122
発売元(株)日本ヘラルド/アミューズピクチャーズ/アミューズソフト販売