ベン・ハーの戦車競走(その2)

■ベン・ハー(1926)■

史劇スペクタクル「ベン・ハー」といえばテレビで何度もオンエアされたので知らぬ人とてない名作だ。僕にとっても生まれて初めて劇場で見た字幕スーパーの洋画ということで,たいへん思い出深い映画である。ホームシアター時代になってそれなりの設備を整えて再見したときは本当に感動したものだ。巨大作という表現はこの映画のためにあると言ってもいいだろう。

……というのはウィリアム・ワイラー監督,チャールトン・ヘストン主演でオスカーをごっそり獲得した1959年の作品だが,よく知られているようにこれは「ベン・ハー」という物語の最初の映画化ではない。サイレント時代の先達が存在する。1926年作のサイレント版「ベン・ハー」である。

今ではDVDでリリースされているので容易に入手できると思うが,これを見ると誰もが驚くこと請けあいである。僕自身これを見てたまげてしまった。

75年も前(今は2001年)のサイレント時代の作品ということで稚拙なものを想像する人もいるだろうが,とんでもない。スケールがでかい。人海戦術がすごい。おまけにアクションの迫力が並大抵ではない。当時の映画産業の実力を思い知らされる超大作である。

それは59年のワイラー版で見どころだった例の戦車競走のシーンについても同様だ。もう「うわ,ムチャしよるな〜」と感嘆するばかり。ワイラー版のあのシーンは映画史に残る名場面だが,こっちも全然負けてないぞ。スケールと迫力,そしてスピード感や構図にいたるまで「こんな昔にこれほどのものがあったとは!」と驚かない人はいないだろう。

サイレントなので当然セリフも効果音もないのだが,にもかかわらず,耳元ですごい轟音が鳴っているようなド迫力である。しかも59年版とそっくりな画面が頻出するので,ワイラー監督たちがこの26年版をずいぶん参考にしていることがわかる。それはもう僕たちのような普通の観客にとっても一目瞭然ってくらいにだ。

DVDではチャプター10の98分24秒あたりからレースが始まるが,その少し前からじっくりとこのスケール感を堪能しよう。初めて見る人は「へえー」とか「ほおー」とつい声が出てしまうかもしれない。

ところでこの映画,時代的に当然モノクロかと思いきや,実はパートカラーなのである。着色するシーンをどういう基準で決めているのかわからないが,時々うっすらと色が着いている。その茫とした色の着き方が逆に年月を感じさせるところでもあろうか。

そういえば俳優のメイク,特に女優のそれはいかにもサイレント期という感じで目の周りがやけに濃かったりする。ワイラー版に慣れているとヒロインのエステル(ワイラー版ではエスター)などはさすがに違和感ありありだが,なんせ昭和初期の映画なのだ,ストーリーの違いも含めて,それもまたよしとしておこう。

ベン・ハー CPVD-1158
発売元(株)ビームエンタテインメント