ベン・ハーの戦車競走(その1)

■ベン・ハー(1959)■

初めて映画「ベン・ハー」を見たのは中学時代。映画といえば東宝の怪獣映画や若大将シリーズくらいしかキャリアがなく,劇場で洋画を見るのは初めての経験だった。字幕スーパーの映画を見るのも初体験。話によると「戦車の競走シーンがあるらしい」とのこと。戦車と聞いて思い浮かぶのはプラモデルで作ったタンクのイメージだったから,それが競走するというのはどういう場面なんだろうなと思ったものである。

もちろんこの映画の戦車というのはタンクではなくチャリオットだったわけだが,大昔はこいつを戦車と呼んでいたことを僕はそのとき初めて知ったのだった。

映画史上に名高いこの戦車競走のシーン。映画学校の教科書にもなっているそうだが,まさに撮影技術の粋を集めたといってもいいすばらしい名場面である。現代のような驚異的なCG技術のない時代であるから,本物の物量でスペクタクルを再現しているわけだが,その迫力とスケールたるやすさまじいばかりである。

舞台となる競技場のセットはとんでもないでかさだが,それでも俯瞰のシーンを見るとあれだけのスピードでレースをやるにはまだ狭いことがわかる。しかし,実際の映画ではありとあらゆる撮影テクニックが駆使され,実物以上の巨大さを生み出している。このあたりはデラックス版LDに収録されたメイキングを見ると面白さ倍増だ。

LDではサイド3のチャプター53から。時間でいえば46分52秒,総督ポンティウス・ピラトが落としたハンカチ(ハンカチなんだろうな)を合図にこの壮絶な戦車競走がスタートする。ここでは一切音楽は流れず,効果音のみであり,観客も映画の中の群衆の1人と化してド迫力のレースを見物している気分になる。テレビで何度も放送された作品だからこのシーンもおなじみだろう。

しかし,テレビの洋画劇場で見るそれはとても本物とは言えない。

この作品は70ミリ超大作なのだ。ドラマも映像も巨大なのである。横長の大きなスクリーンで見て初めて本来の構図が堪能できるのだ。特にこの戦車競走のシーンはテレビのトリミング画面では全く別物である。

作品にふさわしい視聴環境を構築することもまたコレクターたるものの務めである,と痛感させる超巨大作。メイキング共々必携。

ベン・ハー デラックス版 PILF-2351
発売元(株)パイオニアLDC