初めてテリー・ギリアム監督の「バロン」の予告を見たのは深夜番組の映画コーナーだった。僕のあやふやな記憶ではかの有名な11PMだったような気がするのだが,この映画,89年作だからつい10年前の作品である。となると11PMで見たというのははなはだ怪しく,どこかで勘違いをしているのかもしれない。あの番組はもっとずっと前のものというイメージがあるからだ。
それはともかく,その時かいま見た映像はまことにファンタスティックだった。夜の砂の海を静かにすべっていく船のシーンの美しさは格別で,CG全盛の現在でもあの感じはなかなか出せないのでは,などと思ってしまう。あの銀色の夜の雰囲気がとても好きで,後にLDが出たときには迷わず買った。
しかしこの映画でもっとも有名なシーンといえばやはり貝殻からヴィーナスが登場する場面ではないかと思う。
この場面はボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」(1485年ころの作)という非常に有名な絵画をモデルにしているのだが,実は最近になるまでヴィーナス役がユマ・サーマンだということを知らなかった。きれいな人だなとは思っていたのだが,彼女,僕の中では「アベンジャーズ」の印象が強いので全然結びつかなかったのだ。う〜む,そうだったのかあ。
お付きの天女(侍女?)がふわふわと飛んでいくさまとか今風のSFXとは全然違うのだが,この映画のタッチにはよく似合っている。ほら吹き男爵も含めて子供の頃読んでいた物語の世界というのはハイテク映像のイメージではなく,もっとプリミティブな雰囲気だったからだ。
DVD版ではチャプター16。さすがはヴィーナス,バロンならずとも「マダム,言葉もありませんぞ」という気持ちはよくわかる。
ところで,映画の中では彼女の夫はヴァルカンというちょっと粗野な感じの神さまだが,石ころを握りしめてダイヤモンドにしてしまうところなどにやにやしてしまった。あれって人造ダイヤの製法そのものだもんな。さすがは神さまだ。これは上記ヴィーナスの登場シーンに引き続いて見ることができるぞ。
この神さま,武器を作っては人間同士に戦争をやらせているというとってもアブナイお方だが,核兵器(だろうな)の効能について解説するくだりなど実にブラックでよいね。ずばっと本質もついているし。
しかしどうやってヴィーナスを口説いたんだろうな。
バロン SDD-11774
発売元(株)ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント