超美麗都市

■APPLESEED アップルシード■

映像技術はどんどん進歩しているので,たとえひととき最新技術を謳ってもそれ自体はすぐに古びてしまうことが多い。新しさだけがウリでは瞬発力以上のものを期待するのは難しいのだ。生き延びたければ他にも必要なものがある。例えばセンス。技術を生かすも殺すもひとえに使い手の器量にかかっているというわけだ。

子どものころ,テレビアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」を見ていてひどく新鮮だったのはその背景美術の圧倒的な豪華さだ。特にギャラクター基地のメカニカルな構造,細かい壁面の描き込み,グラデーションのついた機械設備といったリッチな美術は他のアニメのそれが書割に見えるほど一線を画していた。

要するにデラックスだったんだね。物量はともかく,注ぎ込まれた美麗なセンスにいたく感激していた。だから作品自体は古びてしまってもその印象だけは今なお健在だ。

あれからずいぶん時は流れてアニメーションも劇的に進歩した。少なくとも技術はCGと融合してえらいところまで来たと思う。ここで例を挙げるまでもなく思い当たるタイトルはいくつもあるだろう。今年2004年はそのことを実感するのに最適な年でもあった。費用も時間も手間も……とにかくたくさんのリソースを要求する最新作を目にすることは(話に共感できるか否かは別として)ある種の眼福であることは間違いない。

「APPLESEED アップルシード」も今年話題になった作品のひとつだが,僕がこれを見ていちばん最初に思い出したのが先の「ガッチャマン」の美術の記憶だ。とにかくそのCGで描かれた未来都市の風景は快感だった。美しい〜と思わずつぶやいてしまったよ。

面白いのは,同じCGによる都市景観でもあの超話題作「イノセンス」と全く逆のアプローチをとっていたこと。素材を極限までいじり倒してフィルターかけまくりという印象の「イノセンス」に対してこちらはどこまでもクリアーですっきりと見通しのよい風景である。ハリウッドと同じ方向性とでも言うのかな。対する「イノセンス」はヨーロッパやアジアが喜びそうな美しさか。

どちらも非常に美麗なのだが,何十キロも先までくっきりと見えるような本作のシャープな映像はやはり気持ちいい。僕にとってはかつてのタツノコプロのリッチな美術に感じたものと同質の心地よさだった。

人物の表情,特にあの妙にきついハイライトにはなじめないし,モーションキャプチャーを使ったキャラクターの動きはある意味アニメーターの技術を否定する邪道なやり方だとも思う。実際,重力と加速度を操る動きの神髄はまだまだ手描きアニメーターの手の中にある。そういった自分の美意識に反する部分も正直この作品にはあるのだが,それでもこれは見てよかった,一見の価値があったと思っている。

あのクオリティの背景の中でメカをがんがん動かして効果ハデハデなアクションシーンをやるとなったら,もうCG抜きでは不可能だということがよくわかるからね。ハリウッド風味濃厚な日本映画ってこういうスタイルになるのかもしれない。

ストーリーやキャラクターではなくCGによる超美麗都市の風景をおすすめする,というのは映画の紹介としてはどうかとも思うが,映像作品にとって「目に快感」というのは大きな要素だ。だからあえて今回はどのシーンがどうというのではなく,舞台となる都市の景観そのものを名場面としてあげておきたい。

「アップルシード」ってこんな話だったっけ?というくらい原作を読んだ記憶は遠いのだが,これならパート2もぜひ見てみたいと思う。まあバブルヘッド人形のような妙に首のすわらない感じのあの演技だけは改善してほしいけどね。見ているうちにそれほど気にならなくなったのはアクションシーンの迫力が天晴れだったから,と言っておこうかな。

APPLESEED アップルシード GNBA-3015
発売元(株)ジェネオン エンタテインメント