シェルブールの雨傘 メインテーマを聞く

■シェルブールの雨傘■

ミュージカルといえばアメリカ/ハリウッドの専売特許みたいだが,フランス産の「シェルブールの雨傘」は,ただ1作でハリウッドのミュージカル文化に対抗できるほどの傑作中の傑作だ。およそ映画ファンと名のる者は全員が見ておくべき名品である。

しかもこの作品,アメリカのミュージカルとは全く違う。役者が突然踊り出したり,セリフが急に歌に変わることはない。ストーリーも陽気な恋物語ではなくシリアスな悲恋物語である。むろん僕はハリウッド・ミュージカルも好きだが,この「シェルブールの雨傘」の魅力はそれとはまた別のものなのだ。

なにしろセリフがすべて歌なのである。セリフと歌がはっきり別れている普通のミュージカルとの最大の違いだ。ダンスナンバーもない。カトリーヌ・ドヌーヴら出演者たちとセリフ(すなわち歌唱)担当の歌手たちは対等のダブルキャストであり,二人一役なのである。数多いミュージカルの中でも突然変異に近い作品だろう。

歌って踊ってというのがミュージカルの本来の姿だとすれば,この作品は破格の存在と言えるだろう。普通の恋愛映画のセリフだけをすべて歌曲に置き換えたようなものだからだ。しかもとびきりの名曲に。

そう,何と言ってもミシェル・ルグランの音楽がすばらしく美しい。才能豊かな氏にしても畢生の名作ではなかろうか。加えてヒロインの声を担当しているのがダニエル・リカーリとくればもう絶品としかいいようがない。フランス人がフランス語こそ世界一美しい言葉と誇るのも納得できてしまう。

セリフがすべて楽曲になっている以上,特定のナンバーを抜き出すのは難しいのだが,ここはやはりメインテーマだろう。いろいろなアレンジで登場するが,サイド1の39分33秒からサイド1ラストまでの部分,ヒロインが出征する恋人と別れるシーンが最高だ。同じ曲でのラストシーンもすばらしい。ひとたびこの映画を見た者はこの曲を聞くと自動的に涙腺がゆるんでしまいそうになるだろう。幸福な条件反射だ。

フランスの香りと胸を打つ哀感に満ちた必携の1枚である。LDユーザーであれば中古だろうが新品だろうがとにかく1枚持っていなけりゃ話にならない。64年度カンヌ映画祭グランプリ。

シェルブールの雨傘 OOLF 3
発売元(株)CBSソニー