木星爆発

■2010年■

史上名高い傑作の続編やリメイクにチャレンジするスタッフにとって,そのプレッシャーの重さはいかばかりかとも思うが,そうした事情が省みられるかどうかは出来上がった作品次第だ。モノが「2001年宇宙の旅」の続編ともなれば注目も風当たりも半端ではなかったろう。

映画「2010年」,これをどう受け止めるかは難しいところだ。

独立したSF映画として見ればなかなか楽しめるし,ビジュアルも美しい。しかし,何といってもあの「2001年」の続編である。見る側の目が果てしなく厳しくなるのも致し方ない。やる方だって覚悟の上だったろうが。

果敢な挑戦と評価するか,身の程知らずとこき下ろすか……しかし,公開から18年たった今,あらためて向き合うと「よくできてるじゃん」となんだか安心したような気持ちになるんじゃないかな。相手は映画史上の最高傑作に挙げる人もいるほどの偉大な先輩だからね,後輩の意気込みだけでも買ってあげなくちゃ。

一番の違いは騒々しさだろうか。

「2001年」の格調高い静寂はあの映画の品格を一段も二段も高めている。キューブリック以外の監督・スタッフにあそこまでストイックに徹しきることを望むのは難しい。派手な効果音をすべて封印する肝っ玉は現代ハリウッドにはないからだ。故に「2001年」のあの世界を再現してくれる作品は二度と登場しないと僕は思っている。

とはいえ,この「2010年」はストレートなSF映画としてもう少し評価されてもいいんじゃないかな。実に正統派の欧米SFタッチがいっそ小気味いいではないか。ディスカバリー号の哲学的遭難とモノリスの意思,そこに地球上の東西両陣営の危機的緊張といった問題が絡み合って最後に劇的な解決を見るという……うん,面白い。過小評価してたかもしれないなあ。

見どころはやはりクライマックスの木星爆発にからんだくだりであろうか。正確には爆発ではなく恒星化である。木星は誕生時にもう少し質量が大きければ核融合を起こして第二の太陽になっていたかもしれないといわれている。モノリスは重力制御で木星を収縮させて恒星化を図ったのだろう。おお,SFしてるぞ。

DVDではチャプター29の前後あたり。84年のCG技術のたぶん最前線の映像はこういうレベルだったとわかる。美しいと思う。ディスカバリー号は本家に較べるとややスケール感が足りないかなという気がするが,レオノフ号のごつい船体の動きはなかなかメカっぽくて僕は好きである。

正統派ハードSF映画というのは作られる機会も少ないし,観客のウケもそんなに期待はできないが,ファンとしてはその志が途切れずに受け継がれていくことを祈りたい。

2010年 HP-57046
発売元(株)ワーナー・ホーム・ビデオ