旅は人生の濃縮パック(5) 〜アフガニスタン人の涙〜 


 私は、アフガニスタン人に救われた日のことを思い出していました。それは’93年の夏、北京の町はずれにある屋台でのこと。
 私は、初めての中国で、コミュニケーションが取れず、孤独感で一杯でした。ガイドブックの中国語を読んでも通じないし、「メイヨー(ないよ!)」と“拒否の言葉”ばかり浴びるし、意気消沈していたんです。次第に、私は筆談だけで接するようになりました。

 そんな中、アフガニスタン人の彼と会ったんです。
「ハロウ!」
 英語を聴いたのも初めてなら、声をかけられたもの初めてでした。私が顔を上げると彼は
「そっち、いい? この人はニュージーランドから来たって。今ここで会ったんだ。よかったら一緒に」
「僕はアフガニスタン人。僕の国は戦争してるからサ。逃げてきたんだ」
 彼は笑顔で元気で、大きな声でよく笑うんです。また、店に出入りする人をよく知っていて、いろんな人に声をかけ、紹介してくれる。私は久しぶりに声を出して笑いました。声を出すことがこんなにも心地よいなんて・・。笑顔を忘れ、口をつぐみ、出逢いを拒否していたのは私だと、彼は気づかせてくれました。そして、この日を境に私は積極的になり、次々と優しい出逢いにめぐまれたのです。
 しかし、翌朝、私が見たのは、泥酔し目を腫らした彼の姿でした。昨日、私達といたときは飲んでいなかったのに・・。客に絡み、暴れ、そして何度も何度も、こう叫んでいました。
「戦争で妻も子供もみんな殺されたんだ!」
 彼は、数人の男達に連行されていきました。ただ連行する男達が決して手荒でなかったことが、唯一の救いでした。

 毎日、アフガニスタン情勢を聞きながら、私は彼を思い出します。1日も早く人々が平和に暮らせるよう・・心から願ってやみません。

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