贅沢な時間旅行


世界一周の後半、東欧のハンガリーから、中国の上海まで、ずっと列車で旅をしました。今回は一番長く、一番充実したシベリア鉄道での話です。

モスクワ出発は真夜中の0時半、ローカル列車は103時間かけて、モンゴルとの国境の町へと向かいます。
4人用コンパートメントで顔を合わせたのは、3人の若いオトコたち。それもひとりは高校生ぐらいの男の子。何だかヤ〜な予感を感じです。案の定ドアをピシャリと閉め、うるさい音楽をボリュームいっぱいにかけ始めました。ウオッカをカブ飲みし、踊り歌い、食べ散らかし、明け方には飲みすぎのひとりが吐く始末で、まさにさいあく!。
その朝、一番うるさかった高校生?が降りたのはよかったのですが、あとのふたりとはどうしても気まずい雰囲気です。せっかくのローカル列車だというのに沈黙のコンパートメント・・になってしまい、温かい交流どころではなくなってしまいました。
そんな夕方、ひとりのおじさんが乗ってきました。彼はみんなで紅茶を一緒に飲もうよと誘い、チョコとクッキーを広げ、それが新しい空気を運んでくれました。彼がおごってくれたマンタのあたたかさが、妙にジンときたのを覚えています。

その翌日、おじさんが降りたあと、今度は中年の男女がやってきました。でも空いてる寝台はひとつ。
どうなってるのかな・・と思っていると、その女性が私に「*****!」
もちろんロシア語です。「???」としてる私に、大きな声でダダーとしゃべりまくる彼女。
それでも、様子で、部屋を代わってくれと頼んでいることがわかり、
「ええ、お安い御用ですよ」
「スパーシバ!(ありがとう)」
彼女はバナナ3本差し出し、ホッとした笑顔を見せました。旅をしていて助けられてばかりですから、感謝されるのって気持ちいいなあ・・なんて思っていると、次は問題発覚です!

「あれ・・?これは?どこにある?」
と、自分のハンドタオルを指さす彼女。彼女らの手にはそれぞれ、シーツ、枕カバー、ハンドタオルという3点セットがあったのです。
「うーん。初めからなかったよ」と私。
そのやりとりをたまたま検札に来た乗務員が見て、問題は表面化。寝台も荷物も物色され、あげくに、私は乗務員室に連行?されたのです。
「ハンドタオルは? どうしたの!」
彼らは何度も何度も尋ねました。でも言葉は全く通じないし、乗務員さんは怖い顔・・。
彼らの身振り手振りでわかったのは、『寝台を利用する人は、まずこの乗務員室で、3点セットを受け取る、そして降りる時に返す』それが“決まり”だということ。私は“それ”を知らなかった、と言うものの、そのうちの2点があるがために、あらぬ疑いをかけられてるのです。

話はさかのぼりますが、初日ドンチャンさわぎの最中、あの高校生みたいなうるさい男の子に頼まれて寝台をかわったのです。その寝台には、彼が借りたであろうシーツと枕カバーがセッティングされていて、彼はそれらを置き去りにして降りてしまったのです。他のふたりもあの泥酔状態では何も覚えてないでしょう。そうするとタオルは一体どこに?。彼が持って帰ってしまった?。それにしても借りていないものを返せ!と言われても・・困るばかり。こんなややこしいこと、説明のしようがありません。
しばらく時間が経ち、私は無事解放されたのですが、モノの貴重さを思い知らされました。自分(日本)のものさしで考えてはいけないのですね。

後半は、子供連れの親切な夫婦の部屋に移り、車窓は大きなバイカル湖になり、私は、旅の途中で受け取った「般若心経」の解読書を繰り返し読むことができました。
なぜここで突然、般若心経?と思われるでしょうね。それはまたの機会に書くことにしますが、私はこの本に出逢ったことで、出発前に抱えていた悩みや迷いを捨てることができたのです。
この5日間でも、怒ったり、感謝したりされたり、喜んだり困ったり・・いろいろあるから旅なんですよね。人生もそれと同じかもしれないなあ・・とそう思えたのです。
現地の人とふれあえて、ゆっくり自分の時間をもつことができて、それでいて目的地に向かっている・・列車の旅って素敵です

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