ときどき・・日本人宿


 「パスポートをとられましてね」
「えっ!どこでですか?」
「この国の東の方で・・気づいた時にはなくなってまして・・。・・実は、2度目なんですよ。領事館に再発行頼みに行ったら、“・・もう日本に帰った方がいいんじゃない・・”って言われちゃって」
「はあ・・」
「2度目だと、なかなか発行してくれないもんなんですね・・。いつできるかもはっきりしないんですよ。」
1泊500円の日本人宿、ハンガリーのブタペストにあるテレザハウスで“夜の集い”が始まりました。

「自分でも、今度の旅ついてないなと思うんで・・やめた方がいいのかも・・と考えてはみたんですけど、・・そう簡単にやめられないんですよ・・ねえ・・」
「まあ長い旅してる人間にとっては、パスポートより、お金をとられた方がこたえるからね・・。」とヒゲのおじさん。
「いやあ、実は・・お金も、やっちゃんたんですよ。」
「へっ?」
なんでもカジノに熱中して4,500$も負けちゃったと言うのです。4,500$ってことは45万円!ですよ。そこまで熱中し、パスポートを2度とられてもメゲない本人は、いたってやさしそうな山男風の男性。

「ホント、今回は何かと危ないメに遭遇しますわ・・。」
「で、1度目はどこでとられたんですか?」と聞くと、
「ポーランドの安宿なんですけど、5人組の強盗に監禁されましてね。手足を縛られ、口にガムテープされて、目の前で荷物をゴソゴソと物色ですよ。」
「で、で・・それで?」
「全部とられちゃったんですか?」ともうひとりの人。
「現金を少しだけ、あとトラベラーズチェックをね。あとはぐちゃぐちゃに散らかして置いていきましよ。・・チェックにしててよかったなあ・・とつくづく思いましたね。再発行してもらえましたから」
「よかったねえ・・何より無事で・・」
「でもさあ、宿に入ってきたんじゃ、お手上げだよねえ・・」
「隠しようないもんね・・」
みんな、うんうん。

「旅も長いと、みんな何かとられたりしてるよね」
と渡辺まりなに似ている26歳の女性。
「まあ、そうだよなあ」
「私がモスクワで逢った女の人ね、いきなり背後からガバッと押し倒されて・・」
エエッと身を乗り出す。
「お金はほとんど持ってなかったらしいけど、カメラとられたって言ってた」
「それだけでよかったねえ・・」
「やっぱ、夜なのよね、そういう事って。彼女もたまたまその日夜遅くなって、急いで帰ってる途中だったって言うし」
トラブルに始まって、ドラッグ、夜遊びスポット、ぼったくりキャバレー。長期旅行者ならではの、働き口情報やおすすめ歯医者。旅で出会ったちょっとかわった日本人の話、なぜかここに寄付された沢木耕太郎の「深夜特急」の話、たまたま仕入れた日本の情報(大相撲、芸能界、経済?がどうのこうの)で、夜はふけていきます。

そんな何度めかの夜、
「○○さんがサイフとられたんだってよ!」
当事者の男性は外出中のときです。
「ホント!」「ゲ!どこで?」
現場は私たちがよく行くイタメシ屋さん。高級でないし、アブナげ?な食堂というわけでもないフツーの店です。
「えー、でもなんで?」
なぜなら彼は、かなり旅のベテランだったのですから。
「リュックをね、つい横のイスの上に置いてたって。見事にサイフだけをスッていったらしいよ」
「お金を払おうとして初めて気がついたらしくって・・。かなりショック受けてたみたい。いつもなら膝の上に置くのに・・って。」
「それで、たくさん入ってたの?」
彼は次の国に出発する準備で、たまたま結構な額をキャッシュで持っていたと言うのです。
明日はわが身、他人事は自分事、慣れたころがあぶない・・(私にとってまさに今!)と肝に命じたのでした。

日本人の集まる安宿は世界各地にあり、私もそんないくつかの宿と出逢い、いろんな情報を知り得ることができました。また日本人に囲まれ、安心できる時間でもあります。でも緊張をゆるめすぎないよう注意して、“ほっと一息”したいですね。

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