子連れで覗いたマニラ(4)
〜苦労あれば出逢いあり〜


馬車のおやじは、待ってやったんだから、これじゃ足りない、と言い出しました。約束したでしょう、と私が言うと、おやじは眉間にしわを寄せて、時間が過ぎてるだろ!・・と。
乗る前にしつこいほど確認した“1時間だけ”200ペソの約束。おやじはその時『今丁度9時だ。1時間だから10時までだね』とも言った。そしてコース通り、時間も予定通り、終点サンチャゴ要塞へ到着。しかし、ここからが問題なんです。<
馬車を降りた時、私の注意は、長男次男に群がる土産物売りに集中してしまいました。同時におやじは、馬車を私達を降ろした入り口付近から、少し離れた所に移動させたのです。“お金を払っとかな”と思った私は、おやじを呼び止めました。しかし、おやじは、「あと、あと。先に行ってきー」と。「時間はかまわないのか?」と私が聞くと、おやじは、歩きながら頷き、「OKだよオッケー!」と。
そして、この時私達は、“まあ、親切ねえ・・”と思ったのだから、平和ボケもいいところ。

言い争いは、仲間が割り込んできて喧々囂々、メタメタになってきました。しかし、ここで言われるままお金を渡せば、観光客に対してまた同じコトをする・・。ここは、最初に交わした“約束”を盾に頑張っておりました。
さすがに、おやじは、交わした“約束”には反論しないんです。しかし、向こうの強みは、今の時間。こうしている間も、刻一刻と時間が過ぎていく・・。
これ以上話してもムダ、と見極めた瞬間、私は子供の手をしっかりにぎり、友人Yちゃんに声をかけ、クルリと背を向け・・、そして、大股で?堂々と大通りに向かって歩き始めました。

というわけで、またもや観光客向け乗り物で、ヤな思いをした私達は、今度こそ、何が何でも“庶民の足”に乗るぞ、と思いました。まずは“ジプニー”というジープを改造した乗合バス。しかし、これには路線図や停留所がなく、乗りたきゃ自分で止めなくちゃいけない。そっ、これからが大変なんです。
まず、走っているジプニーのボディに記された目的地を読む。記された、といっても、決してデカイ文字で書かれてあるわけじゃない。それを、一瞬で読み、乗るならすぐに意志表示、そして俊敏に乗り込まなくちゃいかんのです。
運良く読めても、目的地には、地名あり、通り名あり、駅の名前ありで、“あそこらヘンかしら・・”なーんて考えている間に、目の前を通り過ぎていくーんです。トホホ。
また、聞こうにも、みんな忙しそうで、聞けそうな人がいないんです。まあ、こんなぐちゃぐちゃな、信号も横断歩道もない交差点なんだから、のん気に立ち話してたら・・アブナイっす。
そっ、この時はまだ焦っておりません。なぜなら道は5つ。このどれかがエルミタへ向かうんですからねっ。
しかし・・必死の思いで道を横断し聞くと、また行かない。また渡って次の道で聞いても・・行かない。そう、どの道もエルミタには行ってない・・。全身から力がヌケていくのでした。

カンカン照り、湿気ムンムンの中、気がつけば1時間が経過。だっこされてる次男は眠り、長男は疲れて果てて、もう限界。
しかし、ここから流れが変わるんです。
私達はエルミタをあきらめ、一番近いLRTの駅はどこなのか、と聞いてみました。LRTはマニラ中心を南北に結ぶ高架鉄道。そう、どこの駅に行き着いたとしても、迷うことはない・・。
「チャイナタウンに行けば、カリエド駅があるよ」
「どのジプニーに乗ったらいい?」
「えーとね・・」
何人もの人のおかげで、ジプニーを止め、LRTに乗り、エルミタに着くことができました。ぎゅうぎゅう詰めの車内で、自分の子供をヒザに挟んで立たせ、長男を座らせてくれたおばちゃん。乗り降りのときには、いつも誰かが手を貸してくれました。

ケンカして、途方に暮れた、からこそ、何気ない人の優しさがじーんとしみる。私はこの瞬間が大好きなんです。 (続く)

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