心ゆたかな国 ミャンマー(5)〜3ドルの首長(くびなが)族〜


 インリー湖で最初に出会ったものは、水上生活を営むインダー族の“足こぎボート”。漕ぎ方がちょっと変わっています。ボートの上に左足だけで立ち、右足には、くっつけた長いオール。この体勢で器用に船を操り、空いた両手で、網を使い、魚を捕っているのです。
 広く静かな湖で、何隻かの足こぎボートと会い、モーターつきのミスタームーの船は、快調に飛ばし始めました。そして船は湖畔の湿地帯へ。
 水上マーケットです。魚や野菜、香辛料や日用雑貨がひしめきあふれる市場。大勢の人のやりとりを観察しながら、私は、ミャンマー人御用達の、ゾーリと、シャンバッグという布バックを買いました。
 水上バゴタなど、おきまりのコースを見終えて午後、彼の船は、高床式の家が並ぶ水路へ入っていきます。湿地帯につっこんで船を止め、彼はひょいと降り立ちました。
「どこに行くの?」
「ボクの家に案内するよ」
と笑顔で言いました。彼は、25歳で、ここで暮らすインダー族。お昼ゴハンを一緒に食べたとき、自分には、3歳の男の子と3ヶ月の女の子がいると、話してくれていました。
 「あれ、何だと思う?」
彼は、むしろに広げられた葉ッパを指さしました。
「お茶?」
「あれね、葉巻。ボクの妻の仕事だよ」

 ムー家に着くと、早速、3歳にしては小さく思える男の子が彼に駆け寄ってきました。おばあちゃんが、どうぞ、どうぞ、とニコニコして、お茶と白い揚げ煎餅を出してくれます。
 「さあ、2階にどうぞ。葉巻作っているよ」
妻は、1本の棒を使って、大きな葉に、乾燥葉ッパを巻いていました。機械のように正確です。
 次に、彼が連れていってくれたのは、白い煎餅を作っているところ。
 釜で蒸した餅米を、おじさんが汗だくで、粘土のように練っていきます。それを小さくちぎって、紙より薄ーくのばし、コザの上で天日干し。葉巻もこの煎餅も、市場に出荷するのだそう。ちょっとやってみたら?・・とおばちゃんたちは、手を取って教えてくれました。
そんな楽しい時間が過ぎ、もう夕方。船着き場に帰ることにします。早朝に着いてすぐ、湖巡りに出たせいか、心地よい揺れにうつらうつら・・。
「あっそうだ、ロングネックピープルと会う?」
とミスタームーが言い出しました。
え?・・首長族?確か・・お隣のタイの山岳に住む少数民族のはず。それがなぜここに?・・。しかし、確かめようにも、彼と私の会話は、超カタコト。目で確かめるしかありません。
そこは、船着き場を通り過ぎた奥、
「ハッロー!」
やけに愛想のいい男性から迎えられました。
「はい、入場料3ドルねっ!どうぞー」
 小さな橋を渡り、門を開けると、そこにはせまく、隔離されたような空間がありました。そして、写真で見たことのある“首長族”が・・。首に金のわっかをたくさんつけ、カラフルな民族衣装に身を包んだふたりの少女。
 「・・・!」
男の号令のような声で、ふたりは、私の元へササッと寄ってきました。そしてもうひとり、お腹が大きい女性も。そして、真新しく美しいわらぶきと竹で建てた家をバックに、写真用のポーズ・・。
「さあ、カメラ貸して!撮ってあげるよ。本物だよ。タイから2組の夫婦を連れてきたんだから」
男は得意満面で、シャッターを押す・・。すると、ジー・・。フィルムが終わって自動巻き戻しの音。
「終わっちゃたの?あっりゃー残念だね。よし!キミは特別に明日も来ていいよ。写真撮りに」と。
 身重の彼女は、1階にある機織りに座ってポーズを取ってくれました。その横には、対照的な古いコンクリートむきだしの家。
「彼女はねー、来月、4人目の子どもを生むんだ。女の子だといいんだけどねー」
裸に近い格好の男の子たちが、その写真用のスペースに遠慮するように、走り回っていました。

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